JANAMEFメルマガ(No.48)

米国のホスピタリストシステムの視察から得た、日本版ホスピタリスト養成のヒント

鈴木 智晴
病院総合内科
社会医療法人仁愛会 浦添総合病院


2022年10月、私はミシガン州アナーバーのVeterans Affairs Ann Arbor Healthcare System(VA)とミシガン大学を訪問し、米国の病院総合内科の現場を視察しました。日本との大きな違いと、これからの日本の医療が進むべき方向性を示唆するものでした。

最も印象に残ったのは、即応性の高いチーム医療です。VAでは、朝の回診には薬剤師や看護師が参加していました。回診では看護指示をその場で確認、管理に反映し、また処方の開始や変更についても、その場で薬剤師がオーダーするなど、やるべきことを遅滞なく行う体制が整っていました。さらに週に2〜3回、退院支援看護師、薬剤師が集まって短時間のカンファレンスを開きます。退院に向けての課題や、患者さんとご家族のニーズについて、それぞれの専門的な立場から意見を出し合う場となっていました。

教育面では、素晴らしいホワイトボードカンファレンス、プレゼンテーション教育、peer teaching / learningなど、診療以外でしっかり時間を設けて教育をする・教育をうけるということが習慣化されていました。また教育・学習も仕事、という仕組み・文化があり、大変羨ましく感じました。またホスピタリストにとっての一つの専門性といえる、医療の質改善(quality improvement: QI)がありますが、QIプロジェクトに、研修医が参加する機会があることも特筆に値すると思います。QI活動の1ヵ月間のプログラムでは、QI専門家の指導のもと、実際の医療現場を改善するためのプロジェクトを、計画段階から取り組みます。中には現場で採用され、長期的なプロジェクトとして継続されるものもあるとうかがいました。現場で起こっている問題に当事者意識をもち、それを改善するということで、多職種の困りごとに対応するなど思いやりが強くなり、また組織を動かすという役割を担うことで、帰属意識の高まりにもつながるように感じました。

このように、多職種共同での診療の効率化や、教育面での先進的な取り組みに大変刺激を受けましたが、改めて感じたことは病棟に専従する医師がいるからこそ成り立つ診療と教育体制だということでした。病棟で多職種連携しつつ、課題を話し合いながら改善していくことは日本版のホスピタリストにも必須の素養だし、ホスピタリストが本邦でも増えていく必要がある、と思いを新たにした次第です。

もちろん、米国の制度をそのまま日本に持ち込めるか、というと難しいかもしれません。「強い主治医感」という日本の良さを活かしながらも、必要な改革を進めていく必要があります。この視察で得た経験は、これからの日本の病棟診療を考える上で、貴重な示唆を与えてくれたと考えています。

 


執筆:鈴木 智晴

病院総合内科
社会医療法人仁愛会 浦添総合病院