「日本版ホスピタリストの養成」の提言について

 

2021年7月吉日 JANAMEF広報委員会

 

背 景

新型コロナウイルス感染症(以下「コロナ」)はパンデミックとなり、日本も大きな感染拡大の波に何度も襲われています。人流と変異獲得という促進因子に乗った日本のコロナは各地で指数関数的に増加しました。日本のコロナ診療受け入れ体制は先進国の中では相対的に薄く、各地の病院診療体制への逼迫は驚くほど短期間で発生し、度重なる緊急事態宣言の発出に追い込まれました。

日本は人口あたりのベッド数は世界一です。例えば、大阪では全病院の病床を合わせると約6万5000床ありますが、コロナ病床は全て合わせても約2600床程度です。コロナ病床率は約4%にすぎません。他の地域でも同様の割合に留まっており、パンデミックが始まって1年以上が経過した現在でも、医学的に入院適応のある患者が入院できない状況が起きています。

コロナ患者を診ることのできる病床がなかなか増やせない最大の理由は、日本の病院では総合系医師(注)の割合が 圧倒的に少ないからです 。高度な医療サービスを提供するためには専門分化も当然必要ですが、臓器別に専門分化した医師のみで病院診療を行うような病院のレジリエンスは低く、パンデミックのような非常事態には対応することができません。

 

提 言:日本版ホスピタリストの養成

コロナ患者の病態は、肺だけでなく、腎臓、心臓、脳、消化管等にも起こり、多臓器横断的な診療が望まれます。すなわち、軽症や重症を問わず、コロナ診療は全身管理であり、全身の臓器を区別なく診ることができる医師が必要となります。このような総合的な症候学と治療学の知識と技術を持ち、全身管理を行うことができる医師、診療体制のコンダクターになれる総合系医師の集団を、日本の医療現場では必要としているのです。

そのような医師集団は米国では「ホスピタリスト」と呼ばれており、今回の感染拡大における入院診療でも中核的な役割を果たしました。全米で約6万人に上るホスピタリストは、米国最大の専門医数を誇っています。

コロナに限らず、近年の入院患者は比較的高齢者に多いので、高齢者診療が得意な医師集団を必要とします。高齢患者の多くは多疾患併存状態にあり、やはり全身の臓器を区別なく診ることのできる総合系医師による診療が望ましいからです。また、これからの病院では、コロナだけでなく様々な院内感染予防対策の知識と技術を持つことが必須となっています。患者の全身管理だけに止まらず、病院全体の管理についても訓練されているホスピタリストの存在は極めて重要です。

 

提言を実施するためのアクションプラン

病院診療のレジリエンス強化のためには、総合系医師を増やす仕組みが必要です。日本版ホスピタリストとして総合系医師の割合を増やすための下記アクションプランを推奨します。

(1) 各病院は、院内に総合系医師によって構成されるホスピタリスト部門を設置し、病院診療のリーダーシップを発揮出来る役割と権限を与える。

(2) 行政は、ホスピタリスト部門を設置した病院には診療報酬を特別に加算することによって、その普及を加速させる。

(3) 各病院、大学医学部および学会は、総合系医師の育成と共に、従来型専門医からホスピタリストへのコンバートを促すためのプログラムを拡充する。

(4) 各ステークホルダーが協力して「ホスピタリスト拠点病院」を認定し、「ホスピタリスト拠点病院」は、国内外での交流を通して、総合系医師の育成および総合系医師の育成プログラムの発展のために寄与する。

 

今からでも遅くはありません。今すでにある感染拡大に対応し、かつ今後も十分に起こりうる医療危機に備え、ホスピタリスト部門を増やすための具体的政策をすばやく導入することを提言します。

 


(注)総合内科医、病院総合医、救急集中治療医など、病院内外において横断的にゲートウェイとしての役割を果たす医師。