JANAMEFメルマガ(No.28)

内科医によるコマネジメントについて

原田 洸
Internal Medicine Resident
Mount Sinai Beth Israel


1 はじめに

私は2021年に日米医学医療交流財団からの助成のもと、ニューヨークのMount Sinai Beth Israel病院にて内科研修を開始し、2024年6月に研修修了予定です。その後は老年医学のフェローシップを行うことを予定しています。今回は、私が老年医学のコマネジメントプログラムに興味をもち、リサーチを行っていることからコマネジメントに関して寄稿させて頂きます。

2 コマネジメントとは

コマネジメントは、一般的にホスピタリストや老年内科医といった、内科系のジェネラリストが、外科等の専門科と共に患者の診療の責任と権利を分担するケアモデルです。これはコンサルテーションモデルと比較すると役割がわかりやすくなります。通常のコンサルテーションでは、例えば整形外科が主治医として大腿骨頚部骨折の患者が入院した場合、必要に応じて内科や他の専門科にコンサルトを依頼し、内科は併診を行います。処方に関しては、コンサルトを受けた内科から推奨するという連絡があり、最終決定は整形外科医が行います。病状説明や退院調整は、基本的に主治医の整形外科チームが行います。

一方、コマネジメントモデルでは、内科と外科の両方が入院から退院まで患者ケアに関与し、責任を共有します。内科がコマネジメントに参加するタイミングは、外科のコンサルトを待つのではなく、事前に設定された臨床判断基準に基づいて行われます。この基準は、主訴や年齢、内科的合併症や老年症候群の有無などで決まり、それらの条件を満たすとコマネジメントが自動的に開始されます。内科の診療範囲は、血糖管理だけでなく、服薬管理、内科の慢性疾患管理、術前評価など、より広い範囲を含みます。このコマネジメントモデルは、2000年頃から米国で人気が高まり、年間10%以上のペースで導入が増加しました(1)。この背景には、手術技術の進歩に伴い、高齢者、フレイル、複数の合併症を持ち、予後不良のリスクが高い患者など、医学的に複雑な患者が外科手術の候補となるようになったことで、術前・術後の内科的な合併症のマネジメントがより重要になったことが影響していると考えられます。

3 コマネジメントのメリットとデメリット

コマネジメントを導入するとどのようなメリットやデメリットがあるのでしょうか。コマネジメントのメリットは、内科医が主体的に診療にかかわることで、院内死亡率などの臨床転帰の改善、医療者の満足度の向上、患者の満足度の向上、入院期間の短縮、コストの削減といった点に貢献することが考えられます。一方で、コマネジメントはメリットばかりではなく、導入することによるデメリットも存在します。具体的には、ケアの分断(外科医と内科医の両者が主治医として関わることになるため、責任の所在が不明確になる)や外科医の責任感の低下、内科医の負担の増加などが挙げられます。

コマネジメントモデルの導入が上手くいったケースを紹介します。イタリアの単施設での前向き研究の報告では、65歳以上で大腿骨頚部骨折のため入院してきた210名の患者を、整形外科・老年科のコマネジメント群と整形外科・老年科コンサルト群にランダムに割り当てました(2)。患者の平均年齢はそれぞれの群で82~85歳で、結果、コマネジメント群ではコンサルト群よりも48時間以内に手術を受けられる確率が約3.5倍高く、コマネジメント群では導入前よりも入院期間が有意に短縮したのです。さらに、コマネジメント群ではプログラムの導入前よりも1年以内の死亡率が有意に減少しました(オッズ比:0.37、95% CI:0.10-1.38)。

しかしながら、コマネジメントモデルの導入は死亡率の改善といった臨床転帰を普遍的に改善するものではありません。内科医によるコマネジメントと通常の外科医による管理を比較した臨床研究に関して、35,800人の患者を含む14件の研究の系統的レビューおよびメタ解析が2020年に発表されました(3)。結果、内科医による管理だけでは、入院期間や死亡率に有意な関連は認められませんでしたが、内科医が多職種連携チームの一部として参加すると、入院期間の短縮(平均差:-2.03日、95%CI:-4.05~-0.01日、P=0.05)、および死亡率の低下(オッズ比:0.67、95%CI:0.51~0.88、P=0.004)に関連しました。このように、多職種連携チームが関わることでアウトカムが改善する可能性は示唆されていますが、内科医によるコマネジメントが臨床転帰に影響を及ぼすかどうかは、十分な結論が出ていないのが現状です。

4 コマネジメントは必要か

上記のように現状のエビデンスは、コマネジメントモデルの導入は死亡率の改善といった臨床転帰を普遍的に改善するものではありませんが、外科の診療科とコマネジメントする科(ホスピタリストや老年科)の組み合わせや、コマネジメントチームの構成によっては成功しているモデルも多く報告されています。つまり、総合的にコマネジメントのベネフィットがリスクを上回る状況下や患者層では、コマネジメントが必要と考えられます。コマネジメントに関する文献レビューでは、比較的健康な患者やリスクの低い手術を受ける患者には、コマネジメントがほとんど役に立たず、むしろコストが増加することが報告されています(4)。一方で、複数の合併症や複雑な社会的背景を持つ高齢者にはコマネジメントモデルが有効と考えられます。例えば、大腿骨頚部骨折で入院した患者は、高齢で内科的な合併症を持つ患者が多く、背景にある転倒や失神の原因精査、入院中のせん妄の対応や疼痛コントロール、骨折の二次予防、早期リハビリと退院支援など、内科医や多職種連携チームが貢献できる要素が多く存在します。コマネジメントが有効な患者層を特定するのは現状では難しいですが、今後さらなるエビデンスの構築が必要で、注目されている分野と言えます。

 

参考文献:

1. Fierbinţeanu-Braticevici C, Raspe M, Preda AL, et al. Medical and surgical co-management - A strategy of improving the quality and outcomes of perioperative care. Eur J Intern Med. 2019; 61:44-47. PMID: 30448097
2. Baroni M, Serra R, Boccardi V, et al. The orthogeriatric comanagement improves clinical outcomes of hip fracture in older adults. Osteoporos Int 2019; 30: 907-16. PMID: 30715561
3. Shaw M, Pelecanos AM, Mudge AM. Evaluation of Internal Medicine Physician or Multidisciplinary Team Comanagement of Surgical Patients and Clinical Outcomes: A Systematic Review and Meta-analysis. JAMA Netw Open 2020; 3: e204088. PMID: 32369179
4. Siegal EM. Just because you can, doesn't mean that you should: A call for the rational application of hospitalist comanagement. J Hosp Med 2008; 3: 398-402. PMID: 18951402

 


執筆:原田 洸
Internal Medicine Resident
Mount Sinai Beth Israel

 

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