JANAMEFメルマガ(No.14)

「ホスピタリストは研修医にとって理想の指導医なのか?米国の教育研修病院における現状と課題」

三高隼人
Chief Medical Resident, Fellow in Medical Education and Administration, Department of Medicine, Mount Sinai Beth Israel, Icahn School of Medicine at Mount Sinai


米国ニューヨーク市の内科研修プログラムでチーフレジデント・医学教育フェローをしている三高と申します。早いもので、2018年に私が日米医学医療交流財団から日本版ホスピタリスト育成助成をいただき、米国ニューヨーク市での臨床研修を開始して4年間が経とうとしています。このたびはメールマガジンを執筆するという貴重な機会を賜り大変光栄に存じます。
今回は、あえて悪魔の代弁者 devil's advocate として米国の内科研修プログラムにおける研修指導医としてのホスピタリストの現状と課題を示すことで、これからどのように日本版ホスピタリストを育成していけばよいか議論する材料を提供することができれば、と考えております。

2016年に、Hospital Medicineのパイオニアであるカリフォルニア大学サンフランシスコ校のDr. Robert M. Wachterが著した “Zero to 50,000 - The 20th Anniversary of the Hospitalist” と題する論説がNew England Journal of Medicineに掲載されました 1)。その頃、私は東京で内科研修医をしており、米国臨床留学と米国のホスピタリストへの憧れを抱きながらこの論説を読んだことを覚えています。その論説のなかで、Dr. Wachterは米国内でのホスピタリスト制度の爆発的発展の裏で失われたものに対するいくつかの懸念を挙げており、ここではそれに沿ってホスピタリスト制度が内科研修医の教育に与えた影響を考えたいと思います。

挙げられた懸念のひとつは、外来診療と入院診療の意図的な分断と、シフト勤務制です。ホスピタリストは、外来診療を行わないかわりに、医療の高度専門分化および患者の高齢化によって複雑性を増している急性期入院診療の主治医として活躍しています。ホスピタリストグループは、1週間連続勤務・1週間連続休暇、もしくは2週間連続勤務・2週間連続休暇、のようなシフト制を組んで勤務しています。また、内科研修医についても、多くのプログラムが、連続勤務時間が24時間を超えるいわゆる当直勤務をなくし、Night Floatと呼ばれる夜勤専従のローテーションを作ることによって、日勤から夜勤への引き継ぎを全ての勤務で行うシフト制を採用しています。また、外来研修も、入院診療の合間に毎週決まった半日を受け持つスタイルは廃れつつあり、週単位の定期的な外来研修ローテーションを行い、その間は基本的には病棟診療には携わらない研修に変わりつつあります。
こうして、米国の若手医師には、定時になったら引き継ぎをして帰宅する、あるローテーションが終わったら担当患者のことは継続して診療しない、というシフトワーカーとしてマインドセットが刷り込まれています。
当然の帰結として、残念なことですが、自分が担当している勤務帯や1週間だけを乗り切る・体裁を整えるような診療が、ホスピタリストにも研修医にも見受けられます。1週間しか連続して入院患者を担当しない制度で(それも1日の半分だけ)、入院後に思わしくない転帰を辿る患者に寄り添う態度や主治医としての責任感を涵養する・維持するのは困難なように思われます。
患者安全や医療の質改善に多大な恩恵があることは承知ですし、シフト勤務の悪影響を緩和するようなさまざまな取り組みがなされていますが、シフトワーカーとしてのマインドセットが臨床医の標準となってしまった場合、プロフェッションとしての土台を揺るがす懸念があります。
また、病棟指導医(ホスピタリスト)が院内に常駐していることによって、研修医の自律性は著しく低下したと考えられています。昔に比べて、自分で立案したアセスメントとプランを述べて、「これでいいか」と承認を迫るような自律的な研修医の割合は減り、指導医から述べられたプランの実行係に終始するような研修医が増えたと、あるベテラン指導医は指摘します。

もうひとつの懸念は、スペシャリストや研究者が研修指導から遠ざかることと、ホスピタリストのアカデミックな活動が不足していることです。
誤解を恐れずに言えば、大多数のホスピタリストは、大学病院や大学関連病院などのアカデミックな臨床研修病院に所属していても、ほとんど学術活動をしていません。ごく少数のアカデミックホスピタリストは、医学教育(研修プログラムのプログラムディレクターなど)、リサーチ、質改善などに携わっていますが、例外的です。ホスピタリストの関わる研究については、Implementation Science 実装科学、Quality Improvement 医療の質改善 などの新しい取り組みなどはありますが、(彼らが日々診ている一般的な疾患の入院診療という宝の山があるにも関わらず)いわゆる一般的な臨床研究をやっていないことが弱点として挙げられ、アカデミア内で軽視されていることが指摘されています。

アカデミックな内科研修プログラムにおいてすら、研修医チームの指導医になるにあたって、特別な認定やプラスアルファのトレーニングは必要ありません。内科研修を修了したばかりの4年目医師でも、研修プログラムの病棟指導医として働くことは全く普通です。内科研修プログラムディレクターやヘルスサービスリサーチャーなどのアカデミックホスピタリストは、それぞれ素晴らしい教育者、研究者であることがほとんどですが、管理業務や研究に割く時間のため、実際に研修医と病棟で働いている時間が少ない、というのは皮肉なところです。実際に研修医と多く働いているのは、アカデミックな活動をしていない、特別な医学教育のトレーニングも受けていない、若手のホスピタリストたちなのです。
スペシャリストたちが、独立した指導医となる前に一般内科研修の3年間に加えて、さらなる濃密な専門研修を2~4年間行い、その期間でリサーチも同時並行で行うことが期待されていること、(自分たちの専門領域に関しては)外来診療も入院診療も並行して行っていること、と比較すると、教えられる内容の深みに差が出るのは当然かもしれません。本来であれば、ホスピタリストがよくある疾患のマネジメントに加えてTransition of Care ケアの移行、Clinical Reasoning 臨床推論、Point-of-Care Ultrasonography ベッドサイド超音波、Patient Safety 患者安全、Quality Improvement 医療の質改善などを、ジェネラリストとしての専門性をもってベッドサイドで研修医に教えることができれば理想なのですが、そのレベルのティーチングができるホスピタリストが現状ではごく一部のアカデミックホスピタリストに限られているのが問題だと感じます。
ホスピタリストの臨床面はというと、急性期の入院診療に特化しているといっても、救急医学や集中治療の専門研修は受けていないため、急変対応はその本領ではありません。多疾患併存高齢患者の入院診療を主治医としてガイドすることが求められますが、老年内科医や緩和ケア医のような視点やスキルが必ずしも備わっているわけでもありません。ホスピタリストは、必要な卒後専門研修の期間がレジデンシーの3年間しかなく、その後の成長は自主的な努力が任されていることから、優れた指導医は本当に素晴らしいのですが、ばらつきが大きいように感じます。
内科専門医になるための3年間の研修期間において、最も直接働く機会の多い指導医はホスピタリストで、その次は外来診療を担当するプライマリケア医です。現在の米国の内科研修では、循環器内科医・感染症内科医・腫瘍内科医などのスペシャリストとは、入院患者の担当医とそのコンサルタントという立場で間接的に関わるか、自由選択期間を使い、専門外来やコンサルトのローテーションを希望して一緒に働くしかありません。内科研修医とスペシャリストが入院患者の担当医と主治医として働くことは、ICU、CCU、移植病棟などの例外を除いて、多くありません。研修医がスペシャリストと働く機会が減ることで、解剖・病態生理・薬理などの基礎医学から疾患を深く理解することや、科学者としての視点を持つことの重要性を学ぶ機会が減ったのではないかと推察します。
これらの懸念が、過渡期に生じた一過性のものであればよいのですが、現在の米国の内科研修医はこうしたホスピタリストの指導のもとで病棟診療を学んでおり、これらの傾向(臨床医の科学者としての態度・視点、アカデミック志向、患者に対する責任感の減少)が教育によって強化・再生産され、世代を経るごとに減衰していってしまうのではないかと個人的に危惧しています。

ホスピタリスト制度への移行は、リスクと利益を天秤にかけて、患者安全・医療の質改善・医師の働き方改革など、さまざまな利益のほうが遥かに大きいと判断されてなされた決断ですし、ホスピタリストが内科入院診療を一手に引き受けるシステムは素晴らしく機能していると感じます。QOLの高さと給料の良さが米国でのホスピタリストの爆発的な増加とホスピタリスト制度の成功の重要な要因であり、アカデミックさとはトレードオフになっていることは重々承知しており、上述のようなリスクを気にしてイノベーションが全く起こらないことが最も恐ろしいことかもしれません。
私自身も総合内科医になるべく研鑽しており、ホスピタリストこそが病棟診療において内科研修医に対する理想の指導医であるという考えは変わりません。しかしそれには、高齢化・複雑化する入院診療において、臨床推論・身体診察・ベッドサイド超音波などの基本的な診療スキル、よくある疾患に対する標準的診療、ケアの移行、医療の質改善、多職種連携の取りまとめなどを、ベッドサイドで実演して伝授できる、というスキルを担保する必要があります。
では日本でどうすればいいのかというと、答えを持っているわけではありませんが、上述の米国での課題を考えると、ホスピタリストに対する卒後医学教育を内科研修の3年間だけで終わらせないことが重要なのではないかと考えます。具体例としては、(1)プラスアルファとして、集中治療・老年医学・感染症などのホスピタリストと親和性の高いフェローシップを修了したうえでホスピタリストをする医師を増やす、(2)リサーチや医療の質改善活動へのインセンティブを付ける、(3)スペシャリストとホスピタリストが協働して回診を行う、などが考えられます。日本版ホスピタリストがこれから発展し根付いていくことを祈念し、私もその一助となれるよう研鑽を続けたいと思っております。


1)Wachter RM, Goldman L. Zero to 50,000 - The 20th Anniversary of the Hospitalist. N Engl J Med. 2016 Sep 15;375(11):1009-11.

執筆:三高隼人
Chief Medical Resident, Fellow in Medical Education and Administration, Department of Medicine, Mount Sinai Beth Israel, Icahn School of Medicine at Mount Sinai

発行:公益財団法人日米医学医療交流財団【2022年2月28日】