留学報告


2020年8月18日

Institution of Parasitology McGill University (マギール大学寄生虫研究所)
客員研究員 荒井俊夫

 

前回に続いての報告になります。今回、私はMcGill大学、Institution of Parasitology, McGill UniversityのDr. Fernando Lopes labの留学中にCanadian Digestive Diseases Week(CDDW, カナダ消化器病学会総会)2020のポスターセッションに研究結果がアクセプトされ、NON-POLAR HELMINTH-DERIVED METABOLITES MODULATES INNATE IMMUNE CELL RESPONSE AND PROTECTS MICE FROM EXPERIMENTAL COLITISという演題名で発表する機会が得られました。

CDDWはカナダにおける消化器関連学会としては最大であり、毎年1回、カナダの東部または西部で開催されます。2020年はカナダ東部での開催年にあたり、カンファレンスはMcGill大学のあるカナダの第二の都市モントリオールのFairmont The Queen Elizabethで開催されました。私の発表は全4日間の内の3日目の夕方からのセッションということもありポスター会場には多くの研究者が集まっていました。発表により各大学の参加者から様々な質問や助言をもらい、活発な議論を行うことができました。寄生虫の宿主の免疫応答を変化させることでInflammatory bowel disease (IBD)モデルのマウスの腸炎を治療するといった研究発表を本学会で行えたことでさらなる研究発展のために必要な新しい課題、展開について考えを深めることができました。

ところが、発表日から2週間後にWHOが新型コロナウイルスのパンデミック宣言をし、モントリオールにおいても新型コロナウイルス感染症の患者数は爆発的に増大し、カナダでの最流行地となりました。研究所は閉鎖となり、予定していた追加実験も一時中断となりました。このような事態になることは全く予想していませんでしたが、これまでに得られたデータを再考察するチャンスと気持ちを切り替え、オンラインによる議論を重ね、これまでの得られた結果と過去の既知の報告をレビュー論文としてまとめ、論文投稿することができました(現在審査中)。研究所に関しては6月から限定的に実験を行えるようになりましたが、日常生活だけでなく研究生活もこれまでより多くの制限を受けるようになりました。

1年間の留学はあっという間でした。帰国の時も今回は、アパートの引き払いや現地で購入した車の売却も直接対面が制限されている中であったため、すべての手続きが特殊なものでした。また、日本へ帰国する航空便にしてもモントリオールから成田への直行便が運休され限定便での帰国となり、かつ、一度帰国した場合、新型コロナウイルスが終息するまではカナダに再入国できない状況でした。研究所の仲間達ともお別れの挨拶を直接言うこともできず、すべてオンラインで済ませる寂しいものでした。成田空港に到着した時は日本に無事について心からほっとしたものの、検疫のPCR検査を受けたあとも2週間の隔離生活を行うといった非常に特殊な体験もしました。

以上、2回にわたってのMcGill大学での留学報告をさせていただきました。これまで支援をしてくださった橋本市民病院、日米医学医療交流財団には心から御礼を申し上げます。本留学の成果がIBD治療の発展に寄与することを願っておりますとともに、新型コロナウイルス感染症が1日も早く収束し、日常生活や研究環境に制限のない留学が可能な日常に戻れるように願います。

 


2019年12月19日

Institution of Parasitology McGill University (マギール大学寄生虫研究所)
客員研究員 荒井俊夫

 

私はこれまで消化器内科を専門とし臨床と並行して炎症性腸疾患(クローン病、潰瘍性大腸炎)と消化管寄生虫を研究テーマとしています。今回、橋本市民病院、日米医学医療交流財団の「大リーガー医育成プロジェクト」の助成を受け2019年7月からカナダ、ケベック州にあるInstitution of Parasitology, McGill UniversityのDr. Fernando Lopes lab に研究留学しています。McGill Universityは1821年にモントリオールに設立された、カナダ最古の大学です。研究所のあるMcGill’s Macdonald Campusはモントリオール市郊外のWest Island に位置し中でもInstitution of Parasitologyはカナダで最大規模の寄生虫研所になります。

炎症性腸疾患(Inflammatory bowel disease (IBD))の病態は不明であり、免疫学的研究結果を背景とした免疫抑制剤、白血球除去療法、生物学的製剤の導入により徐々に質的転換は迎えつつありますが根治的療法はない状況です。IBDはこれまで欧米諸国に多く、わが国では希少疾患と考えられていましたが、近年、患者数は著増し特定疾患医療受給者証交付件数でみると1976年から2017年にかけて128件であったクローン病は41,068件、1890件であった潰瘍性大腸炎は128,734件と爆発的に増加しています。現在のIBDの治療法は対症的なものであることから今後も患者数の増加傾向が予測されています。

疫学的なデータによると熱帯の発展途上国から先進国に移住した人々のIBDの発症率を比較すると移民2世の方が移民1世より発症するリスクが高いことがイギリスでの研究で報告されています。また、韓国や日本を取り巻くアジアでのIBD 増加率は寄生虫駆除がおこなわれた第二次世界大戦後から増加しています。つまり寄生虫感染を含む衛生環境の変化がIBDの発症に関与していることをこれらの研究は示唆しています。また、それを裏付ける基礎動物実験としてマウス腸炎モデルに種々の寄生虫の感染をさせることで腸炎抑制効果を示すデータも数多く報告されています。さらにこれらの研究結果を受け、アメリカのIowa Universityの2005年に行われた臨床研究ではクローン病患者に生きた豚鞭虫卵を内服投与しクローン病患者群の79.3%に病勢の改善を認めたと報告しています。本試験では重大な副作用の報告はなく寄生虫卵は新規IBD治療薬としてなり得る可能性が示唆されました。しかし、その一方、ヒトに定着しないはずの豚鞭虫卵が大腸で成熟しクローン病が悪化したという症例報告もありました。

寄生虫の病原性を考えると、生きた寄生虫はやはりリスクがあるため、寄生虫を利用した副作用のない新規IBD治療薬開発が将来的には望まれます。私の所属するグループでは寄生虫の代謝産物の作用に注目した研究が行われています。現在、関与しているプロジェクトでは豚回虫の代謝産物を精製しそれがマウス腸炎に抑制効果があるか、また、それがみられた場合、宿主にどのような免疫応答を誘導し抑制効果を示すのかを研究しています。渡加して5ヶ月ですが、幸いにもデータが得られ、Canadian Digestive Diseases Week(カナダ消化器病学会総会)2020に研究結果がアクセプトされました。

このようなチャンスを得られたのは本助成のおかげで大変感謝しています。助成対象に採択してくださった、橋本市民病院、日米医学医療交流財団に心から御礼を申し上げます。そしてこの研究成果をIBD治療の発展に還元できるように、今後とも日々努力していきたいと思います。

 


2018年4月30日

Salk Institute for Biological Studies, Gene Expression Laboratory (GEL-B)
(ソーク研究所遺伝子発現研究室)
客員研究員 庄嶋健作

 

海外留学支援制度「大リーガー医」育成プロジェクトで、橋本市民病院の助成を受け、2017年9月21日より米国カリフォルニア州サンディエゴ市にあるソーク研究所の Juan Carlos Izpisua Belmonte 教授が主宰する遺伝子発現研究室に留学し、2018年4月30日現在も同研究所で研究を継続しております。助成を受けた過去半年間について報告致します。

まず留学先の都市であるサンディエゴについてですが、ロサンゼルスから車で南へ2時間の場所に位置し、人口140万人で全米8位の規模となっています。この地方は一年中雨が少なく(年間300日以上が晴天)、温暖で、とても生活しやすい気候です。トランプ政権となって何かと話題のメキシコとの国境に位置しますが、治安もよく、育児にも理解があって家族も安心して生活が出来ています。日系スーパーも揃っており、大変住みやすい街です。ただし、とにかく広いので車は生活必需品です。その点は橋本市にもよく似ていて、フリーウェイを走っていると京奈和道をよく思い出します。留学先のソーク研究所に加え、スクリプス研究所やカリフォルニア大学サンディエゴ校、バイオ系の様々な企業・ベンチャーが研究所を構えており、生命科学の一大拠点としても知られます。

留学先のソーク研究所は、ポリオワクチンの開発で知られる Jonas Salk 博士によって、1963年に創設された生物医学系の研究所です。DNA の2重螺旋構造を解明したことで有名な Francis Crick 博士が研究所長をしていたことでも知られ、小規模ながら多数のノーベル賞受賞者を輩出しています。現在もノーベル賞候補と呼ばれる Fred Gage 博士や Ronald Evans 博士、Tony Hunter 博士が現役で教授を務める、アメリカでもトップクラスの研究機関です。

一方で研究所自体がアメリカを代表する建築家の Louis Kahn の代表作として知られ、上記写真の風景を見るたびに、半年経った今も心踊るような気持ちになります。

私の所属する研究室の主任研究者である Belmonte 教授は、スペイン出身の世界的な幹細胞研究の権威であり、再生医療、さらに最近では老化研究に力を入れていることでも知られます。若い頃はプロサッカー選手という異色の経歴の持ち主でもあります。約30人で構成される研究室は、日本、中国、インド、スペイン、イタリア、コロンビア、メキシコにアメリカと多国籍の陣容を誇ります。様々なバックグランドの研究者が集い、協力しあい、多方面に独創的な研究を推進した結果、革新的な研究成果をコンスタントに発表している、非常にアクティビティの高い研究室となっています。

これまではシグナル伝達とがんの研究を行っておりましたが、こちらでは臓器再生を介した抗加齢医療の実現に向けて研究を開始しました。今までと分野を変えての挑戦であり、新しい環境はいろいろ勝手が違いますが、幸い周囲の方々の助けで研究は順調に進められております。橋本市民病院で総合内科に勤務させて頂き、高齢者医療に携われた経験もうまく研究に結びつけていけないかと考えておりますが、こちらはなかなか難しいです。

以上の様に、大変恵まれた環境で研究生活を送ることが出来ています。これもひとえに、私を助成対象に選んでくださいました橋本市民病院、また日米医学医療交流財団のおかげで、心より感謝申し上げます。ただ、優秀な研究者と共に素敵な建物の中で研究しているだけで、何か成し遂げたように勘違いしそうになりますが、実際はまだ何も成し遂げておりません。橋本市民病院からの助成のお陰でこの貴重な経験をさせていただけることを肝に銘じ、今後より一層の成果を挙げられるよう、頑張っていきたいと思います。