JANAMEFメルマガ(No.40)

茨城県指導医団国外派遣事業 参加報告

井汲 彰
筑波大学 医学医療系 整形外科


この度、日米医学医療交流財団からの支援を受け、茨城県保健医療部医療局医療人材課医師確保グループ主催の茨城県指導医団国外派遣事業(米国・ハワイ州)に参加させていただきました。

私は現在、筑波大学整形外科で手外科・末梢神経疾患の治療を専門としております。また、大学講師の職務についており、整形外科後期研修医・初期臨床研修医・医学生の教育にも取り組んでいます。本事業は茨城県内の指導医の指導能力向上を図るために企画されており、世界標準の先進的な教育に取り組んでいる米国・ハワイ州で医療・教育の現場をこの目で見て体験したいと考え応募させていただきました。

水戸赤十字病院肝胆膵外科の小林昭彦先生、筑波大学消化器外科の宮﨑貴寛先生、筑波大学総合診療科の孫瑜先生と私の4名で、ハワイ大学医学部(John A. Burns School of Medicine:JABSOM)での2日間のClinical Teaching Workshop、SimTikiシミュレーションセンターでのWorkshop on Instructional Methods、Queen’s Medical Centerでの病院見学に参加させていただきました。5泊7日という短期日程でしたが、非常に盛りだくさんの内容で様々な医療・教育の現場に触れることができました。

本報告では、各施設での研修・見学の概要について報告させていただきます。

 
1.Clinical Teaching Workshop @JABSOM

ハワイでの研修はJABSOMのRichard T. Kasuya教授による2日間のHawaii International Clinical Teaching Workshop(H-ICTW)から始まりました。Kasuya先生はJABSOMで医学教育部門の所長、医学教育学部の副学部長などを歴任され、医学生の4年間のカリキュラム全体を統括しており、Problem-based learning facilitation、Clinical skills、そしてEvidence-based medicine skills instructionに重点をおいた医学教育を実践されています。

私が参加したH-ICTWは、臨床設定でインターンや医学生を指導する国際的な医師やレジデントに、臨床教育の分野での指導法を提供することを目的としており、初日の午前中は「Clinical teacher(教育者)の重要な役割」と「効果的な教育者になるための鍵:私たちがどのように学ぶかを理解する」について講義を受け、教育者としての責任と影響力を理解し、学生の視点から教育プロセスを見直すことの重要性を学びました。初日の午後と2日目の午前は「多忙な医師のための教育ツール」について実習を交えた講義があり、臨床現場での教育に役立つ具体的な方法と戦略を学ぶことができました。2日目の午後には学生のモチベーションをいかに高めるかについて、英語での意見交換を通じてKasuya先生の豊富な教育経験から学生の内的な動機づけを促進するための技術について様々なアドバイスをいただきました。2日間のワークショップを通じて、臨床教育における実践的なツールとアプローチを学ぶことができ、自分のこれまでの指導法を振り返りながら、どうすれば研修医や学生のモチベーションを高める指導ができるかを考え直す良い機会になりました。

 
2. Workshop on Instructional Methods @SimTikiシミュレーションセンター

SimTikiシミュレーションセンターは、JABSOMに併設されている医療従事者のためのシミュレーション教育センターです。利用者は高校生に始まり、世界中の医療従事者、米軍関係者など多岐にわたり、年間3000名以上の方がシミュレーショントレーニングに訪れています。また、米国シミュレーション学会(Society for Simulation in Healthcare)の施設認定カテゴリーのうち『教育』『研究』『学習者の評価』『フェローシッププログラム』の項目で認証を受けた施設でもあり、海外からシミュレーション教育の指導方法や研究手法を学ぶために多くのフェローが毎年留学に訪れています。

私が受講したのは国際的な医療従事者を対象とした、シミュレーション基盤型教育の初級レベルの短期集中コース(SimBASE)でした。ディレクターを務めるDr. Benjamin W BergとDr. Jannet Lee-Jayaramの2人からシミュレーション基盤型医療者教育の原理・原則を、講義とシミュレーションの実践を通じて学ばせていただきました。参加型の教育セッションを通じて実際にシミュレーション教育を体験でき、先進的な教育技術をプログラム全体に活用し学ぶことができるよう設計されていました。コアカリキュラムには、シミュレーションテクノロジーと教育方法の紹介・デブリーフィング・チームワークトレーニング・基本的なスキルトレーニングが含まれていました。最先端のシミュレーターマネキン($800,000すると言ってました)を用いて、いかに研修医や学生の意欲を高める効果的な指導を行うかについて学ぶことができ、シミュレーション基盤型教育を自分が指導する教育の現場で今後積極的に取り入れていきたいと思いました。また、高価なシミュレーターではなく日常にあるさまざまなものが医学教育のシミュレーターとして活用できることも教えてもらえたので、今後の教育に役立てていきたいと思います。

 
3. Queen’s Medical Center

Queen’s medical centerでは、同院でHospitalistとして働き、レジデントと医学生の教育にも従事している野木真将先生にアテンドしてもらい、総合内科のモーニングカンファレンス、病棟回診を見学させていただきました。ハワイ大学で米国の医学教育のレクチャーを受けた直後に、生の医療・教育の現場を見学させていただき、レジデントや医学生が自主的に学びながら医療技術を習得していくところをみることができ米国の医療・教育制度に感銘を受けました。私は整形外科で内科の患者さんの治療に関する議論についていくのが難しかったですが、診療に携わっている臨床の医師は自分の専門分野のみならず、さまざまな疾患の最新知識を常にアップデートしていくことの重要性を痛感しました。

野木先生は亀田総合病院の総合診療科でもレジデントと医学生の教育にあたっており、日本とハワイを月ごとに移動しながら仕事をなさっており、医師としての働き方の多様性についても考えさせられるよい機会になりました。

さらに、Queen’s medical centerで医師として診療に従事されている外傷外科と循環器内科の先生との意見交換の場を設けていただき、内科だけでなく外科や専門領域での働き方についても貴重なご意見を伺うことができました。一番驚いたことは入院患者さんの治療の時間軸が非常に短い(スピーディー)ということでした。回診で決まった方針をその日のうちに各種専門医に相談し、その日のうちにさまざまな検査や治療が進んでいく体制が構築されており、日本とは医療制度が異なるということもありますが非常にスピーディーに患者さんと医師が退院に向け共に進んでいっているのが印象的でした。

 
4. 研修を終えて

今回の研修を通して、ハワイにおける最新の医療教育を教育と臨床のそれぞれの現場から学ぶことができました。この経験を活かし、今後の茨城県の医療に少しでも貢献できるよう精進していきたいと思います。助成していただきました茨城県、そして研修の支援をしていただきました日米医学医療交流財団様には、この場を借りて心からの感謝の意を表したいと思います。ありがとうございました。

 


執筆:井汲 彰
筑波大学 医学医療系 整形外科