JANAMEFメルマガ(No.20)

ニューヨークの大病院での老年医学/緩和ケアフェローシップ

新道 悠
マウントサイナイ病院 老年医学/緩和ケアフェロー


1. ホスピタリストを目指して渡米、老年医学/緩和ケアとの出会い

2019年に日米医学医療交流財団からの助成のもと、米国ニューヨークにある市中病院(マウントサイナイ・ベスイスラエル病院)内科の研修を開始し、2022年6月に無事内科研修を修了しました。ニューヨークでの3年間の研修は、慣れない米国での診療に加えて、コロナ感染症の流行などもあり大変な時期もありましたが、日米医学医療交流財団からの援助、しばしば送られてくるメールなどで、他の先生方のご活躍などを拝見して、とても力になったことを覚えております。

私は、内科の研修中に出会った老年医学/緩和ケアでの研修を通じて、老年/緩和ケアに興味を持ち、老年医学/緩和ケアも取り入れたホスピタリストを目指して、2022年7月からニューヨークのマウントサイナイ病院で老年医学/緩和ケアの2年間の合同フェローシップを開始しました。

この度は、メールマガジンに執筆する機会を頂いたので、米国の大病院における老年科と緩和ケア科の働き方とフェローシップについて書かせて頂こうと思います。

2. 米国での老年科医の働き方とフェローシップ

米国での老年科医は、一般的には高齢者を対象とした外来診療(プライマリケア)、訪問診療、老人ホームなどで勤務する場合が多いですが、私の働くマウントサイナイでは老年医学のグループがかなり大きいこともあり、病棟診療も担当しています。フェローとしては、外来、訪問診療、ナーシングホーム、病棟診療など幅広い場面での老年科医師としてのトレーニングができるのが私の所属するプログラムの特徴です。

高齢の患者さんでは、専門の病棟で入院中のADL低下の予防/早期離床/せん妄予防/早期からの退院調整などを行うACE(Acute Care for Elders)プログラムが、退院時のADLの改善、ナーシングホーム退院の減少が見られることが知られています(1)(通常のケア:医療チーム、リハビリ、SWを受けた高齢の患者さんに比べて)。

私がフェローシップをしているマウントサイナイ病院ではACE(Acute Care for Elders)プログラムを行う専門の病棟はないものの、Mobile ACE (MACE)と呼ばれるACEプログラムを一般病床で提供する取り組みが行われています。

基本的なコンセプトはACEモデルを提供するのですが、専門の病棟ではなく、一般病床に入院した高齢の患者さんを対象に、主治医チームとして患者さんを受け持ち、一般病床で多職種チームでACEモデルを実施するというプログラムです。専用の病床を用意するような本格的なACEプログラムに比べると、ADLの優位な改善などまでは認められなかったものの、入院に関連した合併症の減少、入院期間短縮が認められています。

高齢患者さんに特化したホスピタリストとしての働き方なので、個人的にもとても楽しみなローテーションでもあります。

3. 米国での緩和ケア医の働き方とフェローシップ

米国の緩和ケア医の働き方としては、病院におけるコンサルトチーム、緩和ケア病棟での主治医チームとしての勤務、緩和ケア外来、在宅ホスピスなどが一般的かと思います。フェローとして、これらのローテーションを通じて研修が予定されている他、毎週固定の外来で継続的に緩和ケア外来を持ち、外来を通じて他の専門科とも協力しながら患者さんの診療に当たります。特に、緩和ケアは必要な患者さんたちに提供されることで、患者さん/家族のケアに対する満足度の改善、ICU滞在期間/入院期間の短縮、入院にかかる医療費の減少につながることも知られています(3)。私の勤務するマウントサイナイ病院では各ICU(Medical, Transplant, Surgical ICU)に専属の緩和ケアチームが配属されている他、一般病床からのコンサルトも沢山受けており、フェローシップトレーニングの環境としては恵まれていると感じています。

緩和ケア科の役割としては、もちろん重篤な病気を持つ患者さんの症状マネジメント(痛み、息切れ、吐き気、便秘、倦怠感、気分の落ち込み、不安感、吐き気、不眠など)もありますが、それ以外にも、米国では特にコミュニケーションの専門科としての役割も大きいです。

日本での診療経験に比較しても、米国の病院はかなり多くの専門科が一人の患者さんに関わります。特に、緩和ケア科にコンサルとされるような重篤な病気を持つ患者さんでは、多くの異なる専門医チームが入れ替わり立ち替わり関わるので患者さん/家族の間や、時には専門科チーム同士でも治療方針などにおいてやや混乱が生じることがあります。緩和ケアは、これらの様々なチームとのコミュニケーションを補助して、患者さんが受ける治療が患者さん自身のゴールに合致したものになるようにサポートする役割があります。

フェローを開始して感じるのは、このコミュニケーションスキルに関する部分のトレーニングがかなり重点的になされ、英語が母国語ではない私でも、トレーニングによって習得できる「スキル」として体系的にワークショップなどを通じてトレーニングができるので、とても身につけやすいと感じています。

4. 老年医学と緩和ケアを一緒に学ぶ意義

老年医学と緩和ケアはそれぞれ異なる専門領域ではあるものの、お互いに対象とする患者さんの特徴や、提供するスキルの相性の良さなどから米国にも複数の合同プログラムがあります。また、それぞれのフェローシップ自体が1年と他の内科系フェローシップと比較して短く、二つの専門科を学んでも2年で修了できることも理由の一つでしょう。

最終的に仕事を選ぶ際には、老年医学/緩和ケアのどちらかにシフトしていくことが多いですが、いずれの環境で働いていても老年医学/緩和ケアの知識/スキルを診療に活かせるようになるのが合同フェローシップの強みでしょう。私自身も、現時点では老年医学により興味があるものの、緩和ケアの症状緩和/コミュニケーションスキルは高齢の患者さんの診療に於いても活かせる場面が多いと感じています。

まとめ

この度は、日米医学医療交流財団のメールマガジンへの寄稿という貴重な機会を頂きありがとうございました。今後も財団の一員として、医師として成長を続けられるように努力して行きたいと思います。

 


(1) SR Counsell, CM Holder,LL Liebenauer.“Effects of a multicomponent intervention on functional outcomes and process of care in hospitalized older patients: a randomized controlled trial of Acute Care for Elders (ACE) in a community hospital.”J Am Geriatr Soc.Dec; 2000 48(12): 1572-1581.
(2) William W. Hung, MD/MPH, Joseph S. Ross, MD/MHS. “Evaluation of a Mobile Acute Care for the Elderly Service.”JAMA Intern Med. 2013 June 10; 173(11): 990-996.
(3) Center to Advance Palliative Care(CAPC) “The Value of Palliative Care.”https://www.capc.org/the-case-for-palliative-care/

 

執筆:新道 悠
マウントサイナイ病院 老年医学/緩和ケアフェロー

 

発行:公益財団法人日米医学医療交流財団【2022年8月31日】