JANAMEFメルマガ(No.32)

初期研修修了直後の立場から見た米国総合内科研修

石坂 佳子
Mount Sinai Beth Israel


私は2021年に日米医学医療交流財団からの助成のもとMount Sinai Beth Israel病院で内科研修を開始いたしました。皆様のおかげで無事内科レジデンシーも3年目まで到達でき、財団からの助成のおかげで滞りなく研修を進めることができました。このような多大なるご支援を頂けたことを深く感謝申し上げます。
アメリカでより総合的な内科の知識を身につけることが目標で渡米しましたが、実際は最初はこちらの環境に慣れていくことに精一杯でした。医学知識もままならない上にこちらのシステムに順応し、かつ研究などプラスアルファのことをする必要があり、全ての最適なバランスを見つけるのに苦労しました(現在も苦労しています)。なので、今回は初期研修を終えたばかりで渡米した立場で、こちらでのレジデンシー生活を通して考える米国の総合内科研修について日本では気づかなかった視点について記載しようと思います。

フェローシップ準備の束縛
自分自身呼吸器集中治療に進みたいと思いながらも、ベースとして必要な総合内科的な知識を身につけたいと感じて渡米を志しました。しかし蓋を開けてみると実際はフェローシップの応募のためにかなり準備が必要で総合内科的な知識が十分ついたか疑問が残るところがあります。フェローシップにマッチするためには内科の知識や臨床力の評価は重視されていますが研究やコネクション形成、院内等の課外活動も重要な評価項目です。おそらく多くのフェローシップのポジションを得るためには後者のための時間を割く必要があり、なかなか内科的な知識の獲得のための時間の確保や両立が難しいと思いました。

症例の偏り
ACGMEにより統一された研修目標はあるものの、経験できる症例に施設ごとの格差がかなりあると感じました。これは日本でも同様のことが言えますが、やはり専門的な疾患が集中する施設で研修した人と一般的な疾患が中心の施設で研修した人では経験値が異なります。所属する市中病院では一般的な疾患や中毒疾患などは多いですが、不在の科もあるためなかなか複雑な疾患が経験できません。一方で大学病院ローテーションの際に出会った大学病院の研修医からは結構市中病院でありふれた疾患を見たことがないと言われ、一人でのマネジメントが不安になるということも伺いました。
総合内科的な疾患を経験するために渡米することが目的になっていましたが、本当にその目的を達成するためは研修環境も大事だと思いました。米国は日本より病床数が少なく割と入院患者が集約されていて患者の入退院の回転が早いので1日の中で密度が濃い研修ができるのはありがたいですが、数よりも研修の質を向上するためにはより専門的な疾患を扱うteaching serviceのある病院での研修が望ましいのかもしれません。またそれだけではなく症例に多様性がない場合To Doリストをこなし、入退院のサイクルを機械的にこなしがちになるので症例の吟味もなかなかできない気がしています。

医学教育・総合かつ発展的な知識習得の難しさ
医学教育は渡米のメリットの一つと伺いましたが、実際は上記のシステム的な面で学習への制限があると、早期に渡米した立場からすると感じました。また、アメリカの医学部を卒業したてのインターンの立場からの視点になって考えてみると早期にキャリアで何をやりたいか目標が立っていないとフェローシップの目標も立てられず、フェローシップに入る場合は先ほどの総合内科の学習とキャリア形成のバランスに悩み、ホスピタリストになる場合は中途半端な経験でいきなり指導医としての役割を任されるという恐れがあると思いました。
教育の観点に注目すると、複雑な疾患に対して典型的なillness scriptの復習に加えて指導医と病態生理・薬理を振り返り現在のエビデンスを深く吟味する機会がレジデンシーではやや少ない印象があります。日本での初期研修のローテーション先の科の毎週のカンファレンスでは難しい症例の検査結果・画像・病理・背景となる病態整理・最新のデータを総合的に専門医や指導医の知見を含めて吟味して治療方針を立てるということが多くありましたが、こちらでは専門に進みフェローになってからそのような機会が増えるような印象がありました。病棟ローテーションの時のレジデントが入院症例を発表してフィードバックをプログラムリーダーシップの指導医より受ける昼のカンファレンスや、循環器・ICUのローテーション等で指導医から生理学的な背景のレクチャーも絡めた症例の分析を受ける機会がありますが、それ以外でなかなか症例を多角的に吟味する機会はレジデントの立場では多くはありません。自主的に機会を探さない限りなかなか専門科の知見(放射線、病理、その他症例に直接的に関連する専門科)に触れるのが難しいと思います。

来年度チーフレジデントとして医学教育に携わる機会をいただくことになりました。教育に携わる立場になったらまた視点も異なりますし、今こちらに記載したことが間違っていると後から気づくかもしれません。あくまでもトレーニング中の卒後数年の立場で書いたので誤った点があるかもしれませんが、ホスピタリスト育成や総合内科的な視点の獲得については上記の課題があるのかと考えました。

 


執筆:石坂 佳子
Internal Medicine Resident, Mount Sinai Beth Israel