JANAMEFメルマガ(No.31)

ロチェスター大学家庭医療科レジデント(インターン)としての1年間

竹内 優貴
ロチェスター大学家庭医療科レジデント


初めまして、私は2022年6月よりロチェスター大学家庭医療科レジデンシープログラムにて研修をしている竹内優貴と申します。このように順調に研修生活を送ることができているのも、日米医学交流財団の皆様の多大なご支援のおかげであり、この場をお借りして心より感謝申し上げます。本稿では、アメリカならびにロチェスター大学家庭医療科研修の特徴と、その中で得た経験についてご紹介させていただければと存じます。

1. ニューヨーク州ロチェスター市について
ロチェスター市はニューヨーク州の北部に位置する人口21万人の小~中規模都市です。アメリカの中では歴史の古い街であり、現地では奴隷解放運動家のFrederick Douglasや女性参政権獲得のために尽力されたSusan B Anthonyが拠点としたことでも有名です。その歴史に加え、全米、世界各地から学生が集まるロチェスター大学があることもあってか、ロチェスターはリベラルな街で外国人にも寛容な雰囲気があると感じます。また、ニューヨーク州でありながらNYCよりカナダのトロントの方が近く、極寒豪雪の地としてアメリカの中では知られています。なので私が日本から来たことを伝えるとしばしば「冬が大変だけど大丈夫?」と聞かれますが、実は私の地元の北海道旭川市の方が寒く降雪量も2倍近いので、そのことを伝えると皆驚いた表情を見せてくれます。日本にいた時よりアメリカに来てからの方が旭川で育ってよかったと感じるのは気のせいでしょうか。

2. ロチェスター大学家庭医療科レジデンシープログラムの特色
ロチェスター大学家庭医療科レジデンシープログラムは1968年に創設された全米で3番目に歴史の古い家庭医療プログラムで、包括的なケアを提供できるFull-spectrumの家庭医を育成すべく、産科研修とPsychosocial medicine(心理社会的医療)の教育に力を入れています。
特にPsychosocial medicine curriculumは全米でもユニークで、研修2年目に5か月間のPsychosocial Medicine Rotationが行われます。そこでは家庭医の指導医だけでなく、行動科学者、臨床心理士、家族療法士やソーシャルワーカーなどの多職種の指導の下、家庭医としての心理療法、家族療法、行動変容アプローチ、コミュニケーションスキル、患者の社会要因への介入などを重点的に学ぶ機会が与えられます。ロチェスター大学にて全人的ケアの基礎理論であるBio-Psycho-Social model(生物心理社会的モデル)が誕生し、家族療法でも世界的に有名という背景があり、医学面のみならず心理社会面のアプローチができる家庭医を育てるという強い信念を持っていることを肌で感じます。Psychosocial Medicine Rotationは研修2年目に行われるため、またの機会を頂けたときにご紹介できたらと思っております。

3. 各科研修について
研修医1年目のローテーションは各科研修がメインで、2年目3年目と学年が進むごとに家庭医療科外来研修の比重が増えていく仕組みになっています。そんな各科研修メインのインターンイヤーの中で、最大の山場といわれるのが当プログラムの特色のひとつでもある産科研修で、研修病院の産科病棟にはロチェスター大学グループの患者だけでなく、様々なPrivate practice(日本でいうところの開業医)のお産も集まる仕組みになっているため、豊富な症例数を経験することができる環境になっています。研修は非常に多忙でしたが、気が付けば2か月間の研修を通して60件以上の経腟分娩を経験し、周産期マネジメントについて存分に学べた貴重な研修でした。またそのなかで、家庭医の指導医がお産を取り上げた後にそのまま新生児の診察をしている様子を見て、人生のすべての段階に関わることのできる家庭医療の魅力を再確認することもできました。産科研修終了後は、Continuity deliveryといい、家庭医療科外来でケアしている妊婦のお産をオンコールのレジデントが担当する仕組みがあります。また、その他の各科研修としてNICU、ICU、救急、小児救急、整形、外科、皮膚科などを一年目にローテします。各科の指導医たちも家庭医教育に対して理解があることが多く、家庭医として必要な知識やスキルの習得をサポートしてくださる印象がありました。

4. 継続外来研修について
研修医1年目は前述のように、様々な科を回りつつ週半日から2日間は家庭医療科外来にて診療することになります。アメリカの外来は原則予約制で、研修はじめは半日で4人の患者のみがスケジュールされますが、徐々に人数が増えていきインターンの終わりには半日で7人の患者を診ることになります。3年目までに半日で10人枠まで増え、一患者当たり20分の時間で診ることになります。日本の感覚だと、一人当たり20分は余裕があるように思えるのですが、外来内容が急性疾患の対応、慢性疾患のフォロー、予防医療のための受診、小児の健診、妊婦のケアなど多岐に渡り、いずれの場合も網羅的な診療が求められるため、実際には時間的にかなりタイトに感じます。例えば、予防医療のための受診では患者の既往歴、家族歴、社会歴、運動習慣や食習慣などの確認はもちろんですが、経済状況、運転時のシートベルト着用の有無、家の火災警報装置の有無、銃を持つ場合にはその管理の仕方なども確認し適宜介入します。そしてもちろんのこと、予防接種、生活習慣病やがんのスクリーニングなども提供するため20分はあっという間に過ぎます。また慢性疾患を抱える患者さんは非常に複雑な心理社会的背景を持っている場合が多いですし、一方で急性疾患の受診であっても、急性期にしかクリニックに来ない患者さんも多くいらっしゃるため、そこで主訴以外の健康問題に対して介入を行う必要性が生じることも多々あります。そのため、毎回外来の日は慌ただしく過ごしていますが、回数を重ねる中で徐々に家庭医として患者のあらゆる側面に臨機応変に対応できる能力や、健康問題の全体像を捉える力が培われてきているように感じています。そして、ソーシャルワーカーをはじめ、社会的要因に介入することを得意とする多職種がクリニックに常駐しているため、そういった方々と日頃から意見を交わすことで視野が広がることも実感しています。
外来教育に関しては必ず外来指導医(プリセプター)が配置されており、いつでも相談できる体制になっています。指導医のスタイルにもよりますが、症例ごとにプレゼンする場合や、事前にプランを共有しておき必要時にだけ相談する場合などがあります。米国では研修医であっても堂々と自分の思考プロセスや考えをしっかり表現することが求められ、(当初苦戦しましたが、)自分の考えを表現するためにはその根拠が必要になり、根拠を考えたり調べることは臨床能力を鍛えるうえでとても重要なことだと感じています。ですので、日本の研修医教育でもそのような学習スタイルを促していくことが今後求められるのではないかと個人的には思っております。また指導内容としては、エビデンスに基づいた標準治療を提供することが大前提とされていますが、それに加えて予防的介入や患者の心理社会背景への介入に対してのフィードバックも多く、家庭医として包括的なケアを届ける姿勢を学ぶことができ、当プログラムで研修できていることを日々幸運に感じています。

5. 病棟研修について
日本では家庭医が病棟管理をすることはあまり一般的ではないと思いますが、アメリカではホスピタリストの家庭医も多くいらっしゃいます。当プログラムの病棟研修では、急性期の疾患で入院を要する患者を主に担当するチームAと、普段から当院の外来に通院しており慢性疾患の増悪や社会的な理由で入院を要する患者を主に担当するチームCの2チームを家庭医のレジデントが担当しており、インターンとしてそれぞれ1か月ずつ研修をします。
チームAでの研修は急性期疾患のマネジメントが中心で、アメリカでは入院期間が短いこともあり、日々めまぐるしく入退院が繰り返され、多忙でしたがその分様々な症例を経験することができました。ご想像の通り、プレゼンでは大変苦労しましたが、基本の型を作ること、冗長にならないように結論とそこに至るまでのlogicを箇条書きでメモしておくこと、あとは自分の英語に対する羞恥心を捨て堂々と話すことで、何とか乗り切ることができました(まだまだ上達が必要ですが)。
一方で、チームCでは病状のコントロールのみならず複雑な背景を持つ患者をどう退院できるように支援するかという面をより考える必要があり、多職種と協力しながら、患者の保険、収入、家族関係、住環境などあらゆる面に目を向けて、退院に向けて取り組んでいくことの重要性を学べ、大変ではありましたがやりがいも同時に感じられる経験でした。家庭医の病棟研修を通じて、日本においても包括的なケアを提供できるホスピタリストが増えていくことは患者の利益につながるであろうことを再確認できました。

6. 最後に
自分のように海外在住経験がなく英会話も大学生5年になってから本格的に勉強し始めた者が、こうして米国レジデンシーの一年目を生き残ることができたのは、本当にたくさんの方々の支えがあったからに他なりません。改めまして、皆様には心より感謝申し上げます。また、臨床留学を目指されている方々へのメッセージとして、英語やUSMLE、マッチング、そして渡米後も多くのチャレンジが続くため、時折Overwhelmingに感じることもあるかと思いますが、目の前の壁を一つ一つ着実に乗り越えることで徐々に道は拓けていきます。私でもここまで来れたのであなたにならきっとできます。応援しています。私自身も引き続き精進してまいりますので、皆様、今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。

 


執筆:竹内 優貴
ロチェスター大学家庭医療科レジデント