JANAMEFメルマガ(No.38)

インターンイヤー上半期を終えて

高礒 甫隆
チルドレンズ・ナショナル病院


平素より大変お世話になっております。現在、ワシントンD.C.にあるチルドレンズ・ナショナル病院(以下CNH)で小児科レジデンシー1年目として勤務しております、高礒甫隆と申します。日米医学医療交流財団からのご支援を賜り、インターンイヤーの約半分を終えることができました。皆様からの支えに心より感謝申し上げます。

私は日本のいわゆる野戦病院で初期研修を終えた後、アメリカ海軍病院と空軍病院で合計2年を過ごし、卒後5年目の年に現在の所属プログラムでの小児科研修を開始いたしました。非常に限られた、かつ偏った経験しかないため、正確な日米の比較はできていない点をご容赦いただけますと幸いです。

1.病院の概要

CNHはアメリカの首都であるワシントンD.C.に位置し、周囲のメリーランド州やバージニア州を含めたエリアの小児医療の要として機能しております。ベッド数は323とそれほど大きくはありませんが、ほとんど全ての診療科が揃っており、近隣のクリニックや病院から紹介された小児患者を受け入れています。首都であるため移民も多く、患者の背景や疾患は多種多様です。

2.CNH小児科レジデンシープログラム

CNHの小児科レジデンシープログラムは1学年約40人と、全米の小児科プログラムの中でもかなり大きい方といえます。私は最も一般的なカリキュラムであるカテゴリカルトラックに所属しておりますが、それ以外に小児プライマリーケア、小児神経内科、小児遺伝、リサーチ、アドボカシーなど各レジデントの目標に合わせて多様なカリキュラムが用意されております。トラックに関係なく、2年目からはリサーチや国際保健の選択コースも用意されており、私もそれらを選択する予定です。IMG(米国以外の医学部卒)は各学年に数名程度在籍しており、H1bビザのスポンサーにもなってくれる数少ない病院の一つです。

3.小児科ローテーションについて

1年間で13ブロック(1ブロック4週間)に分かれており、1年目は9ブロックを入院担当にあたり、そのうち日勤2ブロック+夜勤0.5〜1ブロックがホスピタリストチームの担当となります。当院はこのホスピタリストのローテーション期間が最も大変なローテーションと言われております。多種多様な患者を扱う担当することや、担当する患者は(夜勤や週末に限りますが)インターン1人に対して最大24名と多いこと、また入退院の回転が非常に早く担当患者を把握するのも一苦労です。私が日本で経験した小児患者のほとんどは特に既往歴もなく、一つの病態で説明がつくことがほとんどでしたが、CNHで出会う子どもたちは聞いたこともない遺伝疾患や基礎疾患を持っていたり、虐待や薬物使用など社会的背景を抱えていたりと、問題も多岐に渡ります。また、一度入院した患者をいかに早く退院させるかも求められるため、患者のリストが翌日には全く別物になっていることも珍しくはありません。

一方で、ホスピタリストチームには基本的にフェローがおらず、インターン2名、シニアレジデント1名、アテンディング1名の比較的小さいチームで担当するため、インターンのアセスメント・プランが患者の治療方針に反映されやすく、指導医もインターンの意見を聞いてくれやすい傾向にあり、やりがいのある診療科でもあるともいえます。そして多種多様な患者を短時間に大量に経験するため、学びが大きいのも特徴です。

4.私の課題

半年間のインターンを終えて未だ課題は山積みなのですが、日々の仕事の中で最も感じる課題は大きく3つあります。一つ目は、やはり英語です。米軍病院に2年間所属させていただきましたが、予想通り言語の壁は常に感じます。渡米後にわずかながら英語力の向上は感じておりますが、言語習得のゴールデンタイムを逃した30歳の私には、今後一生の課題であると痛感しております。一方で、なんとか仕事でのコミュニケーションを成り立たせるために会得した技もあり、必ず会話の最後に自分がすべきタスクを要約して確認してもらうこと、分からないことはプライドを捨てて聞き返すことなどが挙げられます。それらを駆使して何とか仕事を全うしているところです。二つ目の課題は、圧倒的な小児科の知識・経験不足です。はじめは仕事で感じる障壁の原因は全て英語だと思っていましたが、小児科の知識が足りない故にディスカッションに参加できないことに気づきました。日本の初期研修であまり小児分野での経験がなかったことや、検査や治療の閾値が初期研修で経験した成人、特に高齢者に対するそれと全く違っており、その辺りの感覚の修正を求められています。三つ目は、人との関わり方です。患者さんとの関わり方は指導医やシニアたちの様子を見ていて学べてきたのですが、指導医への接し方・距離感が未だにしっくりきておらず、またレクチャー等での質問や発言もまだまだ躊躇してしまっているところがあります。これは英語力と小児科の知識のどちらも関わっていると思いますが、アメリカの人間関係の常識がまだ掴みきれていない事も大きな理由だと感じます。これらの課題は、今後完全に解決することはないと思いますが、コツコツと努力を継続して上手く付き合っていきたいです。

5.アメリカ小児科医療の日本との違い

私は渡米前より「アメリカで小児科トレーニングを受ければ日本で働けるのか」という疑問を抱いておりました。現状アメリカの病院で機能する事に精一杯な私の回答は「日米で医師に求められる仕事内容が全く異なるため容易ではない」です。これは、数年後には別の回答に変わっていると予想しておりますし、そうでなくてはならないと思っておりますが、現在の率直な意見・不安としてここに共有させていただきます。こう感じるに至った理由の一つは、経験できる手技の少なさです。この半年で経験した採血は健康な新生児への2件のみ、静脈ライン留置や腰椎穿刺すら経験がなく、中心静脈ライン留置などの経験もレジデンシー中にはあっても数件と聞いています。画像検査も放射線科の読影が前提ですし、心電図の判読も循環器内科が前提、ベッドサイドの超音波検査も行う機会は全くありません。アメリカでは分業化が進んでいるため、日本の小児科医が当たり前に行う幅広い技術の習得は不可能に近いのが現実です。また、訴訟や責任問題を回避するために、コンサルテーションの閾値が日本に比べて非常に低く、日本のように主科が独自に判断することを嫌う傾向にあります。他にも、プライマリーケアが充実しており、病院とクリニックの連携が取りやすいため、入院期間が非常に短く退院が早いのが特徴ですが、退院のタイミングの感覚や入院計画は日本のそれとは全く違っているように感じます。(もちろん、これらの特徴は施設によってかなり異なります。)しかし、日米の違いを理解した上で日々の研修に臨んでいるとはいえ、それを補えるだけの何かができているわけではないのが現状です。今後、帰国することになれば、これらの弱点について、私を受け入れてくださる病院にご理解いただき、どのようにカバーするのか入念に相談する必要があると考えております。

6.さいごに

浅い経験を元に書いた稚拙な文章ではございますが、最後まで読んでいただきありがとうございます。おかげさまで非常に刺激的な毎日を過ごさせていただいております。きっとレジデンシーが終わる頃には全く違うことを言っているような気もいたしますが、それもアメリカでしか得られない成長過程なのかと思い、自分の変化を楽しみに感じております。今後もここまで支えてくださった皆様への感謝を忘れず、残りのレジデント生活を有意義に過ごしたいと思います。引き続き、皆様のご指導ご鞭撻の程、よろしくお願いいたします。

 


執筆:高礒 甫隆
チルドレンズ・ナショナル病院