JANAMEFメルマガ(No.37)
米国小児科および遺伝科レジデンシー
古田 穣
テネシー州ヴァンダービルト大学病院
小児遺伝科レジデント
1. はじめに
2022年に渡米し、ヴァンダービルト大学病院でCombined Pediatrics + Medical Genetics Residencyを開始しました。学生時代にJANAMEFのご協力を得て、ハワイでの「医学部夏期集中医学英語研修」に参加し、また昨年11月は「医学医療交流セミナー(日本大学医学部共催)」に登壇させて頂いたご縁から、今回の執筆の機会を頂きました。
2. 米国小児科レジデンシーで得られる事と得られないこと
これまで小児科レジデンシーの中で気がついたメリットとして、圧倒的な患者の数と幅広い疾患の経験です。大学病院プログラムとはいえ、コモンな疾患からレアな疾患、重症度もバランス良く経験できています。また、Nurse practitioner(NP)が軽症例や状態が安定した患者などをカバーしてくれるお陰で、レジデントは重症や複雑な症例に集中することができる環境が整っています。大量の症例に触れていると、頭の中に症例毎のillness scriptが蓄積していき、コモンな症例は入院と同時に退院サマリーの型を書き上げるようになります。マネジメントに関しては、病院が作成したClinical Practice Guideline(CPG)に基づいて決定されます。CPGは最新のエビデンスによって作成されているので、自然と標準治療が学べます。一方で、CPGから逸脱したことが行われると(例えば抗菌薬の選択など)、申し送りの際に理由を詰められます。米国における頻繁な申し送り文化は賛否両論ありますが、このように第三者からの監視の役割も果たしているように思います。
日本では、大学病院よりも市中病院の方が研修医のautonomyが多いと言われていますが、米国でも同じように感じます。例えば、私が勤める小児病院のPICUにはフェローに加えて、専属のNPがいます。上述のように、状態が落ち着いた患者はNPのチームに移り、新たな重症な患者は常にレジデントの担当になります。一方で、挿管、ライン、ドレーンの挿入などの手技はフェローおよびNPが行うため、レジデントには回ってきません。人工呼吸器の設定をレジデントが自分で動かすこともありません。また、NICUでの蘇生に関しては、フェローおよびNPが行うため、レジデントが指揮を取ることは原則ありません。また、コンサルトの閾値が低いことも特徴です。コンサルトを行う適切なタイミングを理解することが求められます。
以上の経験から、レジデントとして、総合的なマネジメントを決定するための思考力は鍛えられました。一方で、日本の研修医や専修医のように、自分で挿管して、超音波を当て、CTを読影して、などといったことは到底出来ません。日米でレジデントに求められる目標が大きく違うように思います。
3. Combined Programのすすめ
現在私が所属しているレジデンシープログラムは、Combined Pediatrics + Medical Genetics Residencyといい、本来小児科3年と遺伝科2年の5年間を短縮して4年間で行うプログラムです。4年間の研修を終えると、両方の専門医を取得することできます。面接は、小児科と遺伝科サイドの両方のfacultyと行うため、丸一日あるいは二日間行われます。Combined Pediatrics + Medical Genetics Residencyは全米に20個弱のプログラムがあり、各学年約1人の枠があります。Combined residencyを擁するプログラムは、どこも大きなGenetics divisionがあるため、十分な症例数や指導医による教育体制が整っています。Combined programの大きなアドバンテージの一つに、フェローシップに応募する必要がないことです。3年間のPediatrics residencyを終えてから、Geneticsのフェローシップを行うためには、Pediatrics residency中にアプライする必要があります。一般的に、フェローシップのアプライのために、residencyの3年目の夏頃までに実績を積み上げる必要があると思います。一方で、Combined programではすでに2年間のGeneticsフェローシップが約束されています。そのため、急いで短期的な実績を作る必要はなく、より長期的なリサーチなどのプランを立てることが出来るメリットがあります。私のプログラムでは、4年間で最低9ヶ月ほどリサーチブロックが確保されている点も特徴です。Geneticsの他にも、Combined programの専門科はいくつかがあるので、アプライすることをお勧めします。Geneticsの研修はまだ始まったばかりですが、研修環境はこの上なく最高に感じています。また機会があればシェアさせて頂ければ幸いです。
執筆:古田 穣
テネシー州ヴァンダービルト大学病院
小児遺伝科レジデント