JANAMEFメルマガ No.1

コロナ診療と日本版ホスピタリスト

JANAMEF理事(広報委員)・群星沖縄臨床研修センター 徳田安春


1.コロナ外来診療

新型コロナウイルスのパンデミックでは、世界の医療者がフロントラインで活躍している。コロナ感染は、咳や呼吸困難などの呼吸器症状だけでなく、下痢、嘔吐や腹痛などの消化器症状、嗅覚障害やけいれんなどの神経症状、をきたすこともある。また、凝固亢進によって、深部静脈血栓症や心筋梗塞などもきたす。感染で体調不良となり、交通外傷や転倒などでも来院する。

このようなさまざまな症候で受診するコロナ患者を診療する医療者はHigh index of suspicionを備えた診断スキルを持つ必要がある。すなわち、感染流行地ではあらゆる患者でコロナ感染の可能性を考慮すべきなのだ。そうしないと早期診断や隔離がなされず、院内感染や医療者感染のリスクが高まる。感染対策のためのマニュアルを作成し、PPEや消毒液を十分に確保し、これらの使用法を徹底教育する必要がある。

2.コロナ入院診療

コロナと診断された患者の入院診療を担当する場合、全身管理ができるスキルが求められる。高齢者や肥満などの基礎疾患を有する場合、元気そうにみえていたとしても、急速に呼吸不全が出現し進行することがある。また、急性腎障害や心筋障害、全身性血栓形成、川崎病様症候群などの合併症も多く、腹臥位療法や人工呼吸器、ECMOなどによる呼吸管理だけでなく、多臓器障害をマネジメントできるスキルが必須となる。

コロナ診療では最新医療を迅速に導入できるスキルも必要である。最新論文で知識を常に更新し、デキサメサゾンやヘパリンなどの薬剤の使用はもちろんのこと、今後有望視されているモノクローナル抗体カクテル療法についての情報にも敏感になるべきである。ウイルス検査については、世界標準のサイエンスをフォローして、その機器導入と対象者を拡充させる行動力も必要だ。一方で、ヒドロキシクロロキンなどが無効であることを示す臨床試験結果などもフォローせねばならない。

3.コロナ診療と病院システム

このような広範囲にわたるハイパフォーマンスのコロナ診療を行うことができる診療のプロ集団はいるのか、という緊急の問題に我々は直面している。米国の典型的な病院をみると、初療は救急医、病棟はホスピタリスト、ICUケアは集中治療医、感染対策は感染症医が行う。薬剤情報のアップデートはPharmDから行われる。

このうち、特にホスピタリストは、コロナ感染患者診療の中心的役割を担っている。時代のニーズに応えたホスピタリストは米国で近年最も数が増えた医師集団となっている。それを可能にしたのは、国全体での病棟診療システムの改造が行われたからだ。Wachter-Goldmanの提言に従って、大規模な投資と人材の確保と処遇面での優遇措置が行われている。例えば、ミシガン大学病院では、ホスピタリスト部門の教授は、院長とほぼ同等の役職であるChief Clinical Strategic Officerとして処遇されている。これによって、医療の質や患者安全への介入など、診療科を超えた活躍が可能になっているのだ。

日本には、アメリカに比べて病院数が多く、その大部分が中小病院である。人口当たりの医師数も少ない。内科だけでも全ての診療科医師をとり揃えている病院は少ない。救急医、集中治療医、感染症科医が不在の病院も多い。呼吸器科医師は各病院で頑張っているが、少人数の病院がほとんどであり、コロナ診療は呼吸器科単独の範囲を超えることは前述した。

4.日本版ホスピタリストのすすめ

しかし、日本でのコロナ蔓延状況においてもハイパフォーマンスを発揮している医師集団がいる。日本版ホスピタリストだ。Wachter-Goldman型ホスピタリストよりも守備範囲が広いこの日本版ホスピタリストは、総合内科をベースとしており、救急集中治療、感染症、呼吸器の知識と技能も持っている。なぜなら、救急集中治療や感染症、呼吸器は、もともと総合内科(欧米ではDepartment of Medicineという)をベースとして分化した診療科だからだ。

近年における診療科の細分化に対して、高齢化やマルチモビディティーなどの新たな臨床環境で適者となる進化型集団であり、診療態度はinclusiveである。守備範囲が広いので、私はイチロー型医師集団と呼んでいる。全身管理だけでなく、医療倫理のエキスパートであり、病院マネジメントや危機管理に強いコンダクターでもある。研修医教育の要としても理想的とされる。

今だからこそ、日本版ホスピタリスト集団を診療の中心として養成すべきだろう。もちろん、各病院における現在の総合系医師の人数では少ないので、数を増やすことが必要である。そのためには、診療報酬を追加で与えるなど政策面での応援も必要だ。今後、世界を襲うと目される新興感染症のリスクにも対応できるためにも、このパンデミックから日本が学べることの一つと思う。

 


執筆:徳田安春
群星沖縄臨床研修センター臨床研修情報
http://muribushi-okinawa.com/news/index.html

 

発行:公益財団法人日米医学医療交流財団【2021年2月2日】