JANAMEFメルマガ(No.3)
クリーブランドクリニックにおけるCOVID-19診療
佐藤良太
Critical Care Medicine Fellow, Department of Critical Care Medicine, Respiratory Institute, Cleveland Clinic Foundation.
1.はじめに
米国オハイオ州にあるクリーブランドクリニックで集中治療フェローをしている佐藤良太と申します。メールマガジンを執筆するという貴重な機会を頂き、誠にありがとうございます。今回は米国のハイボリュームセンターでどのようにCOVID-19を診療しているか、ということについて解説させていただきたいと思います。
2.クリーブランドクリニックについて
まず、当院についての概要ですがクリーブランドクリニックはその名前の通り、オハイオ州のクリーブランド州にあり1921年に設立された非営利医療機関です。現在、私が主に勤務している本院は1,400床あり、医師が約4,000人、従業員は合計60,000人ほど勤務している非常に大規模な病院です。本院以外にもオハイオ州内に12箇所、フロリダ州、ネバダ州にも分院をもち、更には海外にドバイ、トロント、ロンドンにも分院を持っています。急性期病床は合計すると約6,000床も保有しています。下記に述べる内容は当院の状況も含んでおり、リソースが大きく異なる日本でそのまま適用するのは難しいことは理解していますが、米国での現状を踏まえてご紹介したいと思います。
3.米国におけるCOVID-19の診療の概説
米国では基本的に、ホスピタリストもしくは集中治療医が主科になることが大多数です。当院含め多くの病院においてCOVID-19で入院を要するような(すなわち酸素投与を要するような)場合には、当初は全例で感染症科にコンサルトしていたと思います。現在は、当院ではRemdesivirという薬を使用する場合には感染症科にコンサルトする、というふうに変わってきています。米国では感染者数も非常に多く持続可能な体制で診療を行う、という考え方も大きく影響しているように思います。
COVID-19に罹患した患者さんを診療したことのある多くの方は経験しているかもしれませんが、COVID-19に感染して入院している患者さんのマネジメントはステロイド±抗ウイルス薬を用いるだけ、と言った単純なものではありません。血栓傾向が強くなることが知られておりDVT予防をどうするか、呼吸マネジメントはどうするか、細菌感染症は重なっていないか、基礎疾患のマネジメントはどうするか、転床する場合のベッド状況の管理など、、、と行うことは山積みです。やはり主科となるのは、各専門科のコンダクターであり、かつ俯瞰して全体像(患者診療の全体像のみならず病院運営の視点を含んだ全体像という意味)を見ることのできるホスピタリストや集中治療医が適切なように思います。
また、ホスピタリストの診療では、なかなか行われていないかもしれませんが、米国の多くの病院では多職種回診が行われており、少なくとも薬剤師・看護師・医師(±栄養士±患者家族)で回診を行なっていることが多いです。特にCOVID-19診療においては患者の様子を逐一観察している看護師や日々変わり続ける治療推奨をアップデートし続けている薬剤師の力は非常に大きく、なくてはならない存在となっています。
4.当院におけるCOVID-19対策・診療
感染対策面では感染症専門医や、感染予防対策に関して専門的にトレーニングを受けたチーム、及びホスピタリスト部門、集中治療部門のようにCOVID-19に罹患した患者さんを主科として受け持つ科の代表者、が 毎週少なくとも一度会議を行います。その前週までに現場から上がってきた質問や問題点を話し合い、毎週月曜日に感染対策の方針に関するeメールが全職員に送られます。
つい最近の例で言えば、集中治療医の間から、従来の大きめのフェイスシールドを着ると手技がしにくいが、ゴーグルのようなものは許容されるのか、あるいはフェイスシールドの下部をカットして使用しても良いか、などといった声が上がり、そういった内容が話し合われました。そのeメールには、COVID診療をするエリアでの服装、部屋への入りかた、なども含まれています。COVID-19に罹患した患者さんの中には、非常に複雑な病態や合併症を呈する患者さんも含まれるために様々な専門科の医師が部屋に出入りすることがあります。しかし、必ずしもそういった専門科の医師達が病院のプロトコールに慣れているわけではないため、こういったeメールでの毎週のアップデートは非常に有効なように思います。
実際の診療に関してですが、私は集中治療室で診療に従事しているため当院での集中治療室に関して記載したいと思います。当院の集中治療室では1チームあたり指導医1名、フェロー1名、レジデント1-2名、ナースプラクティショナーまたはフィジシャン・アシスタント1名、集中治療認定薬剤師1名の合計5名程度のチームで約15名の患者さんを担当しています。チームは全部で6チームあり、現在は、そのうち2-3チームがCOVID専門のチームとして機能しています。集中治療室では輸液ポンプや人工呼吸器のモニターは全て部屋の外に出され、部屋の外から薬剤の投与速度や人工呼吸器の設定を変更できるように、輸液チューブなどを延長して運用しています。
実際に使用している薬剤ですが、2020年12月時点では、当院では入院している患者さんにおいて、dexamethasone及びRemdesivirのみを用いていますが、最近になりWHOからはRemdesivirを推奨しないという発表もされたため、感染症科医の間でも意見が分かれているようです。
当初春先には集中治療医の間では、感染拡大の可能性も心配し、まことしやかにNPPVやHigh flow nasal cannula(HFNC)などを用いずに酸素化が悪くなればすぐに気管挿管すべきであると言われ、多くの病院で本来ならNPPVやHFNCで粘れたかもしれない患者さんが気管挿管されたと聞いています。しかし、現在では多くの病院でその方針は修正され、できる限りHFNCなどで粘る病院が当院を含め増えてきていると思います。
気管挿管が必要になってしまい人工呼吸器の管理が必要になった場合のマネジメントにしても、今年3-4月当初は、従来のARDSと異なり当初は肺コンプライアンスが良いタイプの患者には高PEEP値は必要ないのではないか、と言われてきました。おそらくそれは気管挿管が必要ではなかったかもしれない重症度の患者さん(HNFCなどで粘ることのできたかもしれない患者さん)ではARDSというよりCOVID-19肺炎であったためにARDSに対する肺保護戦略がそこまで有効ではなかったのではないか、と個人的には考えています。ですので、現時点では気管挿管を要するような患者さんではARDSに則った肺保護戦略が行われるべきだと考えています。
また、COVID-19では血栓傾向があることが知られており、当院ではd-dimerの値に基づいてDVT予防の抗凝固薬の投与量を変更しています。また、酸素必要量とレントゲンなどの画像所見に乖離がある場合には積極的に肺塞栓などを疑う必要もあります。また、血栓が原因と思われる心筋梗塞の発症例や心筋炎と思われる合併症例もしばしば経験します。
こういったことからもわかる通り、COVID-19診療というのは単一臓器の診療の範疇を大きく逸脱しており内科的な総合力を試される診療であると私は思っています。
5.当院におけるCOVID-19対策・診療
米国ではCOVID-19は2020年11月下旬より再び猛威を奮い始め、私のいるオハイオ州では、ついに感染者・死亡者ともに3-4月を上回る事態となっています。私も本来予定されていなかった日勤や夜勤のカバーに多く入ることになっています。先が見えない中で、診療し続けることは決して容易なことではありません。また患者さんや患者家族とのコミュニケーションも制限される中で、やりがいも感じにくくなっているかもしれません。それでも世界中でCOVID-19と闘い続けている医療者の皆さんが、心身ともに健康に、この未曾有の危機を乗り越えることを心より祈っております。
執筆:佐藤良太
Critical Care Medicine Fellow, Department of Critical Care Medicine, Respiratory Institute, Cleveland Clinic Foundation.
発行:公益財団法人日米医学医療交流財団【2021年4月1日】