JANAMEFメルマガ(No.15)
パンデミック対策として日本版ホスピタリストの拡充を
森川 暢
市立奈良病院 総合診療科
はじめに
私はJANAMEFの助成で米国ハワイ州のクイーンズメディカルセンターで短期の研修を行った。クイーンズメディカルセンターではその後、COVID-19のパンデミックの波が到来したが、同院はホスピタリストが中心となりCOVID-19の対応を行った。ホスピタリストは米国で普及している医師像であり、臓器横断的にすべての内科疾患の病棟管理を行う医師であるとされている。日本版ホスピタリストは米国と比べ、内科外来や救急外来も診療する点で、より診療の幅が広いとされている。徳田安春先生もCOVID-19とホスピタリストについて先に報告されているが、現場の中堅医師の立場で再度、ホスピタリストの意義について記述する。
1. 発熱外来
COVID-19のパンデミックで印象的なのは発熱診療の能力が試されるということだ。COVID-19の流行期には発熱患者をCOVID-19疑いとして診療する必要がある。よって発熱診療に慣れていない施設では発熱は門前払いとなるリスクある。さらにCOVID-19ではない重症感染症の診断が遅れるということもしばしば報告されている。ホスピタリストは発熱診療に長けておりこれらの診断を的確に行うことが可能になる。日本でも市中病院のみならず、大学病院でもホスピタリストが発熱外来の指揮官を担う例が認められている。
2. 救急診療
COVID-19のパンデミックで深刻な問題は発熱患者の救急車のたらい回しである。外来診療と同様に救急診療においても、発熱診療に慣れていない施設や医師は、発熱診療への対応が困難である。ホスピタリストは救急専門医ではないが、内科救急にも長けているため、発熱患者の救急対応も対応が可能である。特に米国ほど救急専門医が潤沢ではない日本の現状を考えれば、ホスピタリストが発熱患者の救急対応にあたる意義は高い。
3. COVID-19診療
COVID-19診療においてもホスピタリストは重要な役割を果たす。感染症内科は当然、パンデミックでは非常に重要でありその必要性は近年議論されている。しかし感染症内科をすべての病院に配置することは現実的ではない。筆者は2021年の日本病院総合診療学会のシンポジウムの事前調査で日本のホスピタリストを対象にアンケート調査を行った。
感染症内科医がいる病院といない病院で比較したところ、感染症内科医がいない病院は小規模病院が多い傾向を認めた。院内で最もCOVID-19診療を行っている診療科がホスピタリストであると感じる割合は、感染症内科医がいる病院では35%に過ぎなかったが、感染症内科医がいない病院では80%のホスピタリストが院内で最もCOVID-19診療を行っている診療科であると感じているという結果であり、統計学的に有意であった。実際、関東圏でも300床クラスの中規模急性期病院にも関わらず感染症内科医がいない市中病院があるが、それらの病院ではホスピタリストが中等症のCOVID-19の入院診療を一手に引き受けており、さらに重症化した際には大規模病院に転院までの間ホスピタリストが人工呼吸管理を行う例も認めた。さらに、感染症内科医がいる病院であってもホスピタリストは感染症内科医と連携して診療を行っている。当院でもホスピタリストが感染症内科医と連携しCOVID-19の入院診療および、外来と救急の発熱対応を行っている。
4. 日本版ホスピタリストと病院総合診療専門医
以上よりホスピタリストの拡充は今後のパンデミックに備える上では最も重要な課題のひとつであると考える。米国ではホスピタリストは内科専門医が担っている。これは米国の内科研修が原則として臓器横断的な幅広い研修であることにより、可能となっている。しかし日本では内科研修は、現実的には臓器別の専門医になるための研修であり、感染症診療を含めた臓器横断的なトレーニングは米国に比べると非常に乏しい。筆者がクイーンズメディカルセンターに研修に行った際に、この日米の内科研修における臓器横断的トレーニングの有無は最も印象に残った点である。日本版ホスピタリストを確立することは重要だが、米国のホスピタリストシステムをそのまま日本で導入することは上記の理由で困難である。筆者は病院総合診療専門医の確立が日本版ホスピタリストの鍵になると考えている。
病院総合診療専門医は最近になり、日本病院総合診療学会と日本プライマリ・ケア連合学会が共同で構築を進めている専門医である。総合診療専門研修を終了した若手医師が病院総合診療専門医の対象だが、内科研修が終了した医師も対象とする予定である。病院総合診療専門医は病院で幅広い領域の疾患に対応することを想定した専門医であり、まさにパンデミックの時代に最も必要とされている日本版ホスピタリストに他ならない。国策として病院総合診療専門医の拡充が、今後のパンデミックに備える上では最も有効な施策であると筆者は考える。
執筆:森川 暢
市立奈良病院 総合診療科
発行:公益財団法人日米医学医療交流財団【2022年3月31日】