JANAMEFメルマガ(No.16)

米国の家庭医療科におけるSubspecialty

園田健人
Addiction Medicine Fellow, Department of Medicine, University of Pittsburgh Medical Center(UPMC)


米国ピッツバーグでAddiction Medicineのフェローをしている園田と申します。2018年に日米医学医療交流財団から助成金のもと、家庭医療の研修を開始して4年の月日が経過しようとしております。こちらのメールマガジンに執筆する機会を頂きましたこと、大変光栄に思います。家庭医療科の研修中にHIV Primary Care Trackを修了し、American Academy of HIV MedicineのHIV Specialist(AAHIVS)に2021年1月に認定され、現在、Addiction Medicineという、米国でも新しい診療科で勤務している事を踏まえ、今回は米国の家庭医療科における、Subspecialtyに関して自身の経験と私見を共有させて頂ければと存じます。

家庭医療科は患者のかかりつけ医(Primary Care Physician: PCP)として様々な問題に寄り添います。地域の需要に応える形でプログラムは家庭医を育成するので研修を受ける環境に応じて、習得するスキルが異なってきます。私の研修を受けた施設はピッツバーグという中規模の街の中では都会に位置する、大学附属病院のプログラムでした。各々の研修医は多様な興味を持っており、将来のキャリアに合わせて個々人の研修内容をプログラム責任者と共に構築します。自身の強みを出すために追加で研修を受けるわけですが、環境と興味の程度に応じて3つの方法があります。

(a)各学年に設けられた、Elective rotationを利用する場合、(b)Trackに所属する場合、(c)フェローシップ研修を受ける場合です。(a)は単純に2~4週間、ローテーションを取るというもので特段、説明は不要かと思いますので、(b)(c)に関して説明させて頂きます。

(b)研修プログラムの中で事前にTrackが設けられており、研修開始時期もしくは2年目開始前に選考が行われます。主なものとしてはGlobal Health Track, HIV Primary Care Track, Underserved Track, Sports Medicine Track, Women’s Health Track, Lifestyle Trackなどがあります。2~3年間に渡った継続外来、研究プロジェクトやレクチャーを通して知識や技能を身につけます。

私はUPMC HIV Primary Care Trackに2年目の開始時から所属し、研修生のLeaderとしてカリキュラム作成にも寄与する機会に恵まれました 1)。大まかな内容としては週に半日のHIVクリニックでの継続外来、毎月のレクチャー(年に2~3回は発表)、研修プログラムでHIV関連の1時間程度のレクチャーを年に1回、HIV Online Module修了等、様々な角度からプライマリケアにおける、HIVを2年間かけてじっくり学びました。新薬が開発される以前は複雑な管理が必要であったものの、現在は随分と単純化されていること、HIVの管理が良好であれば日々の診療に必要なのはプライマリケアであることから家庭医のHIVへの需要は高まっております。その一方で依然としてHIVを教育できる指導医が不足しており、どのようにWorkforceを増やしていけばいいのかというのが課題となっております 2) 。

次にフェローシップ研修に関してです。米国ではレジデンシーによって、進むことのできるフェローシップが異なります。内科からのフェローシップは循環器内科、呼吸器内科、腎臓内科など日本でも親しみのあるものが多いかもしれません。一方で家庭医療科からのフェローシップは馴染みのないものも多いかもしれませんが、日本にも親和性・需要の高いものが数多くあります。具体的には思春期科、老年医学、予防医学、スポーツ医学、女性医学、LGBTQなどがあります。その中でもAddiction Medicineは数年前に国内のOpioid epidemicに対応するために国や州の資金をもとに立ち上げられました。限られた資金と指導医の数もあり、発展途上ではありますが、ピッツバーグにも2021年7月に新しくAddiction Medicine フェローシップが開始することとなり、私ともう1人のフェローの2人が第一期のAddiction Medicine フェローとなりました 3)。

”Addiction”とはそもそも何なのか、という議論から、困難な症例の対応、コミュニケーション能力、同僚の教育法など、1年間で学ぶに事足りません。使用障害・依存症の併存疾患、合併症は全身にわたるため、様々な分野とも深く繋がっています。精神科、緩和ケア科、急性・慢性疼痛科、整形外科、救急科、感染症科、心臓血管外科、循環器内科、消化器内科、集中治療科あたりは特にコンサルトや共に診療する機会が多いです。倫理的な問題が生じることも少なくありません。例えば、入院患者への訪問者がDrugを持ってきて、患者が室内で使用して、意識不明になった場合の今後の訪問者制限、予定されていた手術の調整などです。法律に纏わる問題も多く、Legal staffとも共に問題を解決することも少なくありません。

このような複雑な問題に対応するため、Addiction Medicine Teamは医師、看護師、ソーシャルワーカー、ケアマネジャー、ピアナビゲーター (peer navigator: PN)と他職種で構成されています。PNという方々は自分自身が依存症に過去に悩み、今は克服し、同様の問題を抱える人を当事者の視点から助けようという強い情熱を持った方々です。フェローはチームのリーダーとして会をまとめる役割も担い、研修を通して他職種チームを率いる能力を身につけることもできます。

日本では違法薬物の問題はあまり親しみはないかもしれませんが、アルコール、ギャンブル、インターネット、ゲームは問題視されているのではないでしょうか。一方、そうした問題に対して日々の外来で的確に診療できる医師は多くはないと思います。Addictionは医学的なアプローチだけではなく、精神的にも社会的にも診療にあたることが欠かせません。今後、日本の家庭医・ホスピタリストが依存症・使用障害に適切に立ち向かっていけるよう、私もその一助となれたらと考えております。

 


1) UPMC HIV Primary Care Track: https://www.mckeesport.familymedicine.pitt.edu/residency-program/hiv-primary-care-track
2) Sonoda K, Morgan ZJ, Peterson LE. HIV Care by Early-Career Family Physicians. Fam Med 2021;59:760-765.
3) UPMC Addiction Medicine Fellowship: https://dom.pitt.edu/dgim/training/addiction-medicine-fellowship/

 
執筆:園田健人
Addiction Medicine Fellow, Department of Medicine, University of Pittsburgh Medical Center(UPMC)

 

発行:公益財団法人日米医学医療交流財団【2022年4月30日】