JANAMEFメルマガ(No.17)

ホスピタリストと医療の質・患者安全

栗原 健
名古屋大学大学院 医療の質・患者安全学分野


私は2018年にJANAMEFのホスピタリスト助成の第1期生として、米国Michigan大学のHospitalist部門で研修させていただいた。Michigan大学ではDr. SaintやDr. Chopraをはじめ、多くの名指導医と巡り会えた。その中でも、個人的には「医療の質と患者安全」の分野に出会えたことが大きく、ホスピタリストがシステム全体や現場における医療の質・患者安全改善活動をおこない、どのように現場で活躍しているのかを肌感覚で学ぶことができた。その後、この経験をもとに、浦添総合病院でのホスピタリスト部門の立ち上げにかかわらせていただき、ホスピタリスト部門による医療の質改善効果を示すことができた(1)。それと共に名古屋大学のCQSOプロジェクト(2)で学び、現在も名古屋大学医学部附属病院患者安全推進部で勉強させていただいている。

なぜホスピタリストが医療の質・患者安全分野か?

なぜ、「医療の質・患者安全とホスピタリストなのか?」と最近多くの先生方に聞いていただけるようになった。本メーリングリストでは、あくまで個人として実感しているいくつかの理由を記したいと思う。

まず、ホスピタリスト躍進の要因の1つに、医療の質や患者安全性での改善効果を示したことが大きい。米国における医療経済や安全性などの社会問題が生じていたことが、1つの要因となってホスピタリストが誕生したと承知している。つまり、循環器内科や消化器外科のように、ある疾患群をより専門的に治療するというニーズから誕生したというよりも、社会問題への解決の1つの策として誕生したというのがホスピタリスト特異的な部分であろう。その過程で、入院期間や教育効果など医療の質や患者安全性の向上効果が示されており、同分野におけるホスピタリストの有用性が認識されたものと把握している。

第2にホスピタリストと医療の質・患者安全活動者の役割が類似していることが挙げられる。ホスピタリストは複雑性がある患者医療現場において回診し、多くの医療職と触れ合うことが多く、これらの調整役となることが多い。医療の質・患者安全活動も同様で、病院内外の様々なステークホルダーと調整していく役割が求められる。このように患者や組織を俯瞰してみなければいけない点は類似しており、日本のプライマリ・ケア領域と感染症領域の交流が活発であることも踏まえると、日本においてホスピタリストが他の診療科の医師と比較して同分野に入ってきやすい1つの理由となると考えている。

第3に現場での実装活動をおこなう医師が不足していることが挙げられるであろう。世界保健機関(WHO)の患者安全カリキュラムガイドでも述べられているように、21世紀はじめ頃からスタートした世界的な患者安全ムーブメントの割に安全性の劇的な向上が得られていないことの1つに現場での実装が不十分という問題があげられている。すなわち、多種多様な医療現場において、問題を特定し、現場で実践する必要があるのである。日本に限らず世界的にこの現場での実装をおこなう人材の必要性が訴えられているが、現場においては十分ではないのが実情であり、そのような際にホスピタリストが現場でのコンダクターとして実装を支援する役割を担うことができるのではと考えられる。

これら以外にも米国においてホスピタリストの医療の質や患者安全の研究が他の診療科と比較して割合が高いことなど(3、4)が挙げられる。今後日本でホスピタリストを更に推進するためには、日本の医療が抱えている社会問題を解決する一助になることを客観的に示すこと、そして今の日本の医療システムに沿った形で日本版ホスピタリストの全体像を形成していかなければならない。そのためには日本版ホスピタリストは医療システムや医療の社会問題を継続して学んでいくことが必要であり、そのような知識を学べるプラットフォーム作りに関わっていきたいと考えている。

最後に

私にとって、JANAMEFでの研修は多くの気付きを与えてくれるものであったが、特に米国でのホスピタリストがどのように医療現場で活動しており、どうして活躍できているのかを実感できたことが大きく、あらためてご支援いただいた先生方には感謝を申し上げる。今後は日本版ホスピタリストの推進を含めた、医療現場での医療の質・患者安全性の向上に興味をもってくれる仲間作りをおこなっていきたいと考えているので、引き続き多くの先生方にご指導いただければと考えている。

 


(1) Kurihara M, Kamata K, Tokuda Y. Impact of the hospitalist system on inpatient mortality and length of hospital stay in a teaching hospital in Japan: a retrospective observational study. BMJ open. 2022 Apr 1;12(4):e054246.
(2) http://www.iryoanzen.med.nagoya-u.ac.jp/cqso/
(3) Watari T. The new era of academic hospitalist in Japan. J Gen Fam Med. 2020;21(2):29-30.
(4) Watari T, Tokuda Y. Role of Japan's general physicians in healthcare quality improvement and patient safety. Journal of General and Family Medicine. 2022 May;23(3):137.

 
執筆:栗原 健
名古屋大学大学院 医療の質・患者安全学分野

 

発行:公益財団法人日米医学医療交流財団【2022年5月31日】