JANAMEFメルマガ(No.18)

Hospital at Home - 急性期病床の有効活用

吉田 敬普
Assistant Professor of Medicine, Division of Hospital Medicine, Oregon Health & Science University


オレゴン州は、カリフォルニア州とシアトルで知られるワシントン州とに挟まれた米国西海岸に位置しています。コロナ禍中で起きた大規模な山火事の際に(松茸が採れなくなる、との文脈で?)日本でもその名が聞かれることがあったようなので、お耳にされた方もいらっしゃるかもしれません。私は、同州北西部の、経済中心地であるポートランドのOregon Health & Science Universityで内科研修を修了した後にホスピタリストとして勤務を続けています。

人口密度が比較的低く、Stay Home Orderが早期の段階で出されたオレゴン州では、ニューヨーク市などで見られたほどには新型コロナウイルスの被害がなかったものの、入院患者数の増加や後方施設の目詰まりにより病床数が逼迫しました(しています)。今回は、外来で遠隔診療への切り替えが急速に進んだのと同様に、社会的文脈が後押しする形で当院でも導入が進んだ Hospital at Home(以下、HaH)というプログラムについてご紹介いたします。

その名から明らかなように、患者が自宅にいながらして入院診療を受けられる、が当プログラムのコンセプトです。あくまでも入院診療であるため、ホスピタリストが主治医を務めます。私がHaHを知ったのは、Annals of Internal Medicine 1)でのことでしたが、その歴史は意外に古く1995年に遡り、入院診療が高齢者に与える悪影響を懸念して、ジョンス・ホプキンス大学が家庭での入院レベルの診療を目指したことに端を発しています 2)。その当時はさすがに遠隔ではなく家庭に訪問しての診療でしたが、結果として安全にコストを抑えることができ 3)、その後は主に退役軍人病院での導入がなされていたようです(退役軍人は経済的理由から僻地に居住することも多く、遠隔診療の恩恵を受けやすいことも背景にあるのかもしれません)。先に言及した2020年のAnnals of Internal Medicineに掲載されたランダム化試験(実施時期は2017~2018年とパンデミック前、遠隔診療)でも、HaHの利用によって、医療費の削減、30日以内の再入院の減少、治療中の安静時間の低下と前向きな結果が示されました。

現在、当院のプログラムが対応している疾患には、慢性心不全の急性増悪、蜂窩織炎、尿路感染症、肺炎、COPD/嚢胞線維症の急性増悪などが含まれますが、反対に未確定診断、不安定な病態、手技が予想される場合などは除かれます。この他には、状態は安定しているものの細菌検査の確定を待っている場合、急性腎傷害から透析導入になり外来透析枠が必要になった方の利用も散見されます。オレゴン州は透析枠の確保までに時間が長くかかる州の一つであるため、入院透析枠(透析日に自宅-病院を往復)を使いながらHaHで生み出せる空床には数床以上の価値があります。

救急外来、病棟から病態的に該当する患者が見いだされると、本人から同意を得た上で、医学的および社会的スクリーニングを行います。状態の悪化や自宅では実施できない検査が必要となった際にはBrick & Mortarに呼び戻す必要があり、そもそも満床な昨今では病床の確保にしばしば時間がかかって来院まで患者を危険に曝す(入院中のため救急外来への搬送は原則として受け入れられない)ため、手早くかつ慎重に病態を見極めて可否を判断します。
診療の場を家庭に移した後は、テレビ電話で病院(医師)-家庭(患者)-指令センター(看護師)を結んでの診療を1日に最低1回は実施することになっており、ビデオ越しに行える視覚以上の身体診察は初日と3日目にナース・プラクティショナーが遠隔診療に同席して代行します(透析患者であれば、透析時に直接の診察が可能)。これに加えて、看護師が投薬などの都度に患者と連絡を取り、救急救命士がバイタル測定や簡単な身体診察のために1日2 回訪問、適応があれば採血・採尿、X線画像の検査やリハビリも行うことができます。医師、看護師、薬剤師、ケアマネジャーなどチームの構成員内で齟齬がないようにミーティングも毎日欠かさず行っています。検査の手配、薬剤の配達などロジスティクス的に遅滞を生じることはありますが、導入時に適応判断を誤る、または予測しない合併症が発現しない限りは安全に医療を提供できるように感じています。

高齢者人口が増加の一途を辿る一方で、施策として急性期病床を減らしてもいる日本において、急性期病床を効率的に運用する策として、外来静注抗菌薬療法とともにHaHは一つの可能性のように思えます。私が調べる限りでは公に検討されている形跡を見つけることはできませんが、コロナ禍で自宅やホテルでの診療が行われたことを考えれば、導入自体に大きなハードルがあるようには思えません。家庭医の先生方が熱心に行われている訪問診療との棲み分けが曖昧になりそうな点(1990年代のHaHは訪問診療そのものです)、先行研究でHaHへの参加を拒否する割合が女性に高い点(背景の詳細は不明ながら、米国よりも家庭内における女性の負担が大きい日本で、在宅の女性は患者でいられるのでしょうか)は懸念材料ですが、限られた資源を分配する一つのアイディアとして悪くはなさそうです。

 


1)Ann Intern Med. 2020 Jan 21;172(2):77-85.
2)https://www.hospitalathome.org/about-us/history.php
3)https://www.hospitalathome.org/files/Pilot.pdf

 

執筆:吉田 敬普
Assistant Professor of Medicine, Division of Hospital Medicine, Oregon Health & Science University

 

発行:公益財団法人日米医学医療交流財団【2022年6月30日】