JANAMEFメルマガ(No.23)

小児病院感染症科の視点からのHospitalist

北野泰斗
前 トロント小児病院感染症科
現 ジョンスホプキンス公衆衛生大学院


JANAMEFの助成をいただき、2019~2021年に、トロント小児病院感染症科で2年間の臨床フェローを経験しました。私からは小児病院感染症科の視点から、地域の特性も踏まえてのホスピタリストの考えについて寄稿させていただきます。

トロント小児病院は、トロントの中心に位置し、人口約1,500万人のオンタリオ州の高度小児医療の多くをカバーしています。特に固形臓器移植などの場合は州外を含めたカナダ全土からの小児患者が紹介されてきます。医師含め、多くのスタッフが海外出身で、特にフェローに関しては、海外でレジデントを行った医師が多くの診療科で採用されています。

感染症科の臨床の通常業務としては、主には各診療科のコンサルトを受けること、退院後のフォローアップ、病院外の地域からのコンサルト、専門外来、抗菌薬適正使用(ASP)、感染管理に分かれます。カナダでは、トロント小児病院含め、各診療科からのコンサルトは入院患者だと、感染症科は主科ではなく、主科とともに併診するという形になります。日本では、感染症科が主科になるケースも多いかと思います。感染症科が主科になるかどうかはメリット・デメリットそれぞれあるかと思います。カナダでの(アメリカもそうだと思いますが)感染症科の診療体制でのメリットとして言えることは、感染症科の多くの時間をディスカッションや教育に割くことができることにあると思います。
トロント小児病院の感染症科の一般入院コンサルトチームは、指導医1人・フェロー1人・レジデント2人程度で構成され、おおよそ25~30人くらいのActiveな感染症関連の問題がある入院患者をフォローしています。フェロー・レジデントは朝に各自で回診を行って、その日のコンサルト症例を診察します。そこで生じた疑問や課題はまずはフェローとレジデントの間でのディスカッションで大まかな方針を立てて、指導医にプレゼンをして、最終方針を決定するという流れになります。緊急性の高さはフェローが判断し、緊急性の高い問題はその場で指導医も交えて決定、緊急性の低いものは午後のラウンドで解決します。この流れの中で、レジデントやフェローへの教育が行われています。
レジデント・フェローにとっては、症例のプレゼン能力は必須です。フェローはこれに加えて、レジデントの教育とチーム全体のマネージメント能力が求められます。感染症科は特性上、レジデント教育の基本的な領域も担うことになりますが、フェローは、回ってくる各レジデントが基本的な感染症診療の知識を習得するように支援することも求められます。特に、レジデントの背景が多様なトロント小児病院では、まずは各レジデントの知識レベルや診療スキルを考慮して、それぞれがローテーション期間内で最大限の知識・スキルを習得してもらえるようにフェローが支援します。

感染症科特有の領域に関して、抗菌薬適正使用プログラム(ASP)と感染対策(IPAC)についても少し触れておきます。米国でもそうかと思いますが、カナダでも病院がASPを運用していることはAccreditationのための必須要件となっています。日本でもASPの機運は高まってきており、例えばASPやIPACの運用が病院の加算の要件になってきたりしています。
トロント小児病院やトロント市内の大病院のASPやIPACの運用を見て感じたところは、マンパワーの大きな違いであると感じました。ASPやIPACが重要な分野と認識され、そこに人件費や人員をしっかり投資するというのが国としても、病院としても当たり前になっている文化は大切であると感じました。日本において、北米のやり方を完全にコピーする必要はないかと思っておりますが、ASPやIPACは即席的な病院の利益としては目に見えてきにくい分野でもあり、人員という意味では1つの病院で解決できるものでもないことではありますが、長期的にはASPやIPACの適切な運用はCost-savingにもなるということは当たり前だという認識をこちらではみんな持っていました。

退院後のフォローアップも専門性の高い問題に関しては、入院診療を担当した専門科がフォローを行います。こちらではPICCを入れて、静注の抗菌薬を継続したまま退院し、外来でフォローすることはごく当たり前に行われています。トロント小児病院はオンタリオ州全体からの紹介を受けているために、各地域でのリソースには大きな差があり、これを考慮しながら退院プランやその後のフォローアップを組み立てます。また、感染症科に限らず、高度小児病院の専門科は、院内だけでなく、院外の地域の医療者からのコンサルテーションを受けています。これは、遠隔地域では紹介するとなればヘリ搬送しかないという地理的な理由もあるかと思います。特に感染症科では、地域の診療所や病院からの電話コンサルトを受けており、病院内外に関わらず、専門性の高い領域は専門科がサポートするという文化がありました。日本において、全く同じような運用をする必要があるとは思いませんが、高度機能病院のホスピタリストは、専門領域の地域の診療は院外であってもカバーするという考え方は大変参考になりました。

この臨床フェローの期間において、JANAMEFからご支援いただき、貴重な経験をさせていただいたことに深く感謝申し上げます。今回の経験を今後に活かしていくかについて、引き続き模索していきたいと考えております。

 


執筆:北野泰斗
前 トロント小児病院感染症科
現 ジョンスホプキンス公衆衛生大学院

 

発行:公益財団法人日米医学医療交流財団【2022年11月30日】