JANAMEFメルマガ(No.22)

臨床留学に必要なビザ

竹内ありさ
Arisa Takeuchi, MD
Oregon Health & Science University(OHSU)
Geriatrics Medicine Fellow


私は2018年に日米医学医療交流財団からの助成金のもと渡米し、Oregon Health & Science University(OHSU)にてFamily Medicine Residencyを開始しました。2022年6月に無事4年間の研修を修了し、7月から同大学にてGeriatrics Medicine Fellowshipの研修を開始しました。私が無事Residencyを終える事ができたのも、日米医学医療交流財団からの援助なくしては成し得なかったと感じております。この場をお借りして深くお礼を申し上げます。この度は執筆の機会をいただきましたので、米国での臨床留学に必要となるビザについて、またその後のJ1 waiverついて書かせて頂きたいと思います。

 

【ビザの種類】

IMG(International Medical Graduates・外国医学部卒業生)が米国で医師として臨床留学をする場合はJ1ビザもしくはH1bビザを取得する必要がありますが、多くの日本人医師を含めたIMGはJ1ビザを取得します。ここではIMGが取得する可能性のあるその他のビザ(Oビザ、F1ビザ、Green card)についても記載いたします(*1)。

J1ビザ(交流訪問者ビザ):
交流訪問者プログラムの J ビザは、教育、芸術、科学の分野における人材、知識、技術の交流を促進することを目的としており、アメリカ政府が認可したプログラム主催者から交流訪問者に発行されます。ビザを取得する際に、必ずスポンサー(就労保証人)を必要としますが、このビザのスポンサーは、雇用する病院・プログラムではなく、ECFMG(Educational commission for Foreign Medical Graduates)です。病院側への負担はありません。
最長7年間の臨床留学を行う事ができますが、J1はあくまでトレーニング用ビザなのでAttending(指導医)をすることは認められていません。また、J1 extensionという制度を利用すれば、7年目以降も何年でもトレーニングを延長することができます。利点としては、必要な書類があれば、米国入国の際に弁護士を雇う必要もなく比較的短期間で簡単に取得できます。欠点としてはGreen cardやH1bビザなどの移民ビザへの移行を行う前に、2年間の母国帰国義務があること、またDS-2019が基本的に1年で有効期限が切れてしまうので、毎年領事館にてビザの更新手続きをしなければならない事が挙げられます。この「2年ルール」はアメリカ市民と結婚したとしても消えることはありません。また米国に滞在しながらJ1ビザからH1bビザへの移行はできません。

H1bビザ(特殊技能職ビザ):
このビザは、専門職を有する外国人を対象としており、通常アメリカ人の不足している仕事領域に発行されます。スポンサーは雇用する病院・プログラムで(よって弁護士費用も病院が負担する)、有効期限は3年で、必要なら1度だけ更新することができます(つまり最長6年まで延長可能)。このビザの有効期限が切れる前にGreen cardの申請をする事になります。利点としては「2年ルール」のような帰国義務がなく、米国で仕事を続けながらGreen Cardへの切り替えが可能となっています。欠点としてはH1bを提供してくれる病院がほとんどないこと、よって就活時に不利になる事が挙げられます(Residency matchに関してはビザの選択はマッチング後にするので選考には影響しませんが、その後のFellowship matchではJ1ビザしかサポートしないなどの理由で応募できるプログラムが限定されてしまう可能性があります)。H1bビザの取得条件としてはマッチの時点でUSMLEのSTEP3まで合格していることがあります。

Oビザ(卓越能力者ビザ):
このビザは、医学、芸術、商業、科学、スポーツなどで卓越した技術を持つ者に与えられます。OビザではAttendingとして勤務することが可能で、何年でも延長可能です。利点としては、アカデミアでAttendingとして勤務を続けられる事があります。欠点として、それなりの業績がないと応募できないこと、研究者の場合取得できるグラント(研究費)に制限があること、また米国に滞在する限り「2年ルール」の帰国義務は消えることはないことが挙げられます。

F1ビザ(学生ビザ):
Residency, Fellowship後にMPHやPhDを取得する場合はF1ビザに移行できます。ただ、F1に移行した後も「2年ルール」の帰国義務は消えることはありません。

Green card(永住許可証):
いわゆる永住権で、アメリカに永久的に滞在を許可された者に与えられるビザで、一般的に10年に1度更新が必要です。Green cardの取得方法としては,移民VISAからの移行が一般的ですが、その他にもアメリカ市民との結婚、稀ですが“Lottery”という宝くじ制度もあります。

 

【J1 waiver】

上述の通り、J1ビザには「2年ルール」という母国帰国義務があり、トレーニング修了後に自国に2年間戻った後でなければ、Green cardやH1bビザなどの移民ビザへの移行手続きはできないという制約があります。しかし、この「2年ルール」適用の免除("J1 waiver")を受けてアメリカにとどまる方法があります。免除の方法には以下の5通りがありますが、このうち〈5〉がIMGにとっては一般的な方法です(*2)。

〈1〉No objection statement:外国人医師の出身国の在米大使館に「J-1ビザを保有する当国民がアメリカ内にさらに滞留し続けても異議申し立てをしない」旨の手紙を書いてもらい、ビザの変更を申請するというものです。しかし、現在はこの方法は使うことができなくなっています。
〈2〉Exceptional Hardship:外国人医師が帰国した場合に、アメリカ市民権や永住権を持っている家族や子どもと離ればなれになってしまう場合に免除を受けることができます。
〈3〉Persecution:外国人医師が帰国すれば、人種、宗教、政治観のために母国で迫害を受けるおそれがあるとみなされた場合は免除を受けることができます。この方法は例えば紛争地帯出身の人たちでは適応されますが、日本出身者には当てはまりません。
〈4〉Request by an Interested U.S. Federal Government Agency:国家の大事なプロジェクトや研究に必要不可欠な人材であると認可された場合に免除を受けることができます。
〈5〉Request by a Designated State Public Health Department or its Equivalent:医療過疎地で働くことで免除を受けることができます。

 

【医療過疎地で働く】

J1 waiverのため医療過疎地で働く場合は以下いくつかの方法があります。最も一般的なのは"Conrad 30 Program"です。J1 waiver後は「2年間の母国帰国義務」がなくなり、Green cardへの移行手続きができるようになります。

Conrad 30 Program:
このプログラムは、医療過疎地での医師不足解消を目的として、1994年に始まったものです。各州で毎年30人を上限として、医療過疎地で働く外国人医師を採用できるよう、J1ビザの「2年ルール」を免除するというものです。米国の医療僻地で3年間フルタイムで臨床医として働くことで、Green cardの申請が可能となります。サブ・スペシャリティも応募できますが、基本的にはプライマリ・ケア(家庭医・内科医・小児科医・産婦人科医・精神科医)が優先されます。

The U.S. Department of Health and Human Services(HHS):
この制度を利用すると、医療過疎地でプライマリ・ケアとしてWaiverする方法と、リサーチでWaiverする方法があります。リサーチはその研究に必要不可欠な人材であると認可された場合に免除を受けることができます。プライマリ・ケアで応募する場合は、米国の医療僻地で3年間フルタイムで臨床医として働くことはConrad 30 programと同じですが、この制度には応募数の上限がなく、締め切りも基本的にありません(しかしビザ発行に約6ヶ月はかかるので、就労開始時期の6ヶ月前までには契約完了していないといけません)。サブ・スペシャリティは応募する事ができません。

Appalachian Regional Commission(ARC・アパラチア地方委員会):
アパラチア地方と呼ばれる13州(Alabama, Georgia, Kentucky, Maryland, Mississippi, New York, North Carolina, Ohio, Pennsylvania, South Carolina, Tennessee, Virginia, West Virginia)の医療過疎地で、プライマリ・ケアとしてWaiverする方法です。

Delta Doctors Program:
ミシシッピ州流域の8州で(Alabama, Arkansas, Illinois, Kentucky, Louisiana, Mississippi, Missouri, Tennessee)の医療過疎地で、プライマリ・ケアとしてWaiverする方法です。サブ・スペシャリティも応募可能です。

Veterans Affairs:
VAと呼ばれる退役軍人病院で、医師不足であればJ1 waiverを行う事ができます。サブ・スペシャリティも応募可能です。

ちなみに上述の「医療過疎地勤務」とは、患者数に対して医師の数が不足している地域ということを意味しているだけで、必ずしも田舎や僻地とは限りません。自分が職を探している場所が医療過疎地勤務に該当するかどうかはHRSAホームページで確認する事ができます(*3)。

 

【最後に】

米国で臨床留学される方はトレーニング終了後のプランも考えた上でビザの申請をされることをお勧めします。上述の通り、H1bビザは「2年ルール」の帰国義務がないのでGreen cardへの移行手続きがスムーズですが、その後のFellowship matchで不利になる場合があります。またJ1ビザで渡米された方で、トレーニング後も米国に残るのであれば、J1 waiverを行う必要があります。J1 waiverの就活は早めの行動とコネが鍵となります。ネットに記載されていない場所でも人伝に聞くとJ1 waiverをサポートしていたりするので、早い段階から(だいたい12-18ヶ月前から)人に聞いて行動されることをお勧めします。

 


*1 在日米国大使館ホームページ:https://www.ustraveldocs.com/jp_jp/jp-niv-typej.asp
*2 Visa nationホームページ:https://www.immi-usa.com/j1-visa-waiver/j1-visa-waiver-for-physicians/
*3 HRSAホームページ:https://datawarehouse.hrsa.gov/tools/analyzers/muafind.aspx

 

執筆:竹内ありさ
Arisa Takeuchi, MD
Oregon Health & Science University(OHSU)
Geriatrics Medicine Fellow

 

発行:公益財団法人日米医学医療交流財団【2022年10月31日】