JANAMEFメルマガ(No.35)

日米のハイブリッド勤務を始めて

野木 真将
ハワイ州クイーンズメディカルセンター
ホスピタリスト部門長および副メディカルディレクター
亀田総合病院 総合内科部長を兼任


はじめに

皆様、寒くなってまいりましたがいかがお過ごしでしょうか?前回のメールマガジンNo.33ではハワイでのパンデミック対応をホスピタリストの目線から報告させていただきました。

ハワイでのホスピタリスト指導医の仕事は継続しながらも、2023年6月からは亀田総合病院の総合内科部長を兼任し、千葉県とハワイを毎月往復しながら日米でClinician educatorとして研修医の内科病棟管理教育をしています。

オンサイトとオンラインでのハイブリッド学会やハイブリッド会議の話題も増えてきましたが、これは国境を越えたハイブリッド勤務という形態であり、私自身も初めての経験ですので、興味のある人のために経緯や感じたことを共有したいと思います。

 

前提:アメリカでのFTEの調整

米国のホスピタリスト労務では、「FTE」(Full-Time Equivalent、フルタイム当量)という用語が使われます。これは、フルタイムの常勤医として認められるための週の勤務時間や年間のシフト数を意味します。例えば、クイーンズメディカルセンターのホスピタリストの場合、1週間の日勤勤務後に1週間の休暇が基本で、これにより年間182日勤シフト(365日の半分)が1.0FTEとなります。この1.0FTEに基づいて年俸が計算されます。対照的に、当院の夜勤専従ホスピタリスト(Nocturnist)は3日勤務後に6日休暇で、年間121シフト(365日の3分の1)が1.0FTEと定義されます。私は教育専従で、2週間連続勤務後に2週間の休暇を取ることで、年間182シフトが私の1.0FTEとなります。

コロナパンデミックが最盛期に差し掛かった時、私は臨床教育業務と管理職業務の両立に圧迫感を覚えていました。当時、臨床教育は1.0FTEで、管理職業務は0.1FTE(月給の10%相当)として少し手当てが付いていましたが、業務量はそれを上回り、燃え尽き症候群に近い状態でした。管理職を辞めて臨床と家庭に集中しようと考えていたところ、職場のリーダーシップチームから、臨床を0.5FTEに減らし、管理職手当を0.5FTEに増やす提案がありました。これにより、年間の臨床シフト数は91シフトに減少しますが、年俸は変わらず、実質的に2週間勤務後に6週間休暇が取れるようになりました。この変更により、毎日のウェブ会議、メール対応、他部署との院内プロトコル調整、同僚のシフト調整、文書作成、通信手段の整備(Slackの導入)、採用面接などの管理職業務に余裕ができました。また、パンデミックにより延期されていた医学教育の修士論文も進めることができました。フリーな時間が完全に自由ではなく、常に連絡に対応する緊張感や、家庭での会議が家族に迷惑をかけることには最初疲れましたが、家族の理解を得て継続できました。

給与の増額ではなく、使用可能な時間を増やすという、時間と給与を等価交換するこの合理的なアプローチは私にとって革新的でした。臨床以外の時間は、管理職業務だけでなく、研究、医療品質の管理、患者安全、医療情報科学(clinical informatics)などにも活用できます。管理職を辞めようと一度考えましたが、このような工夫により継続が可能となり、大変感謝しています。私が減らした分の臨床業務を支えてくれる同僚がいることも幸運であり、彼らのためにも力を尽くす気持ちが強まりました。

 

日本からの訪問、ホスピタリスト部門を一緒に作ろう

約1年間、このユニークな勤務スタイルを継続したのちの2022年夏、亀田総合病院の現院長と内科統括チーフが私との会合を望み、ハワイを訪れてくださいました。

長年、日本の医学生や研修医、指導医からの要望を受けて、米国のホスピタリストとしての教育風景のオブザーバーシップを提供してきました。しかし、COVID-19の影響でクイーンズメディカルセンターのシャドウイングプログラムが一時中止され、日本の医療関係者との交流は停止していました。

亀田総合病院からの訪問は、コロナウイルスの影響が緩和し、クイーンズメディカルセンターがオブザーバーシップを再開した、幸運なタイミングでした。私の教育的ラウンドと臨床業務を一日中見学していただいた上で、日本でホスピタリスト部門を主導するために来てほしいという申し出を受けました。それに応えるための柔軟な勤務スタイルを支援するという提案も頂きました。

私はハワイでの管理職業務をリモートで行っていたため、適切な通信環境があれば日本でも業務を継続することが可能です。しかし、米国での臨床教育は楽しみとやりがいを感じさせる環境であり、コロナの困難を共に乗り越えたアメリカの職場同僚を離れることには躊躇がありました。

そこで提案したのは、クイーンズメディカルセンターでの私の勤務体系と同様に、2週間の病棟勤務の後に6週間の休暇が取れるなら実現可能だということでした。このスケジュールであれば、日本と米国を行き来することにはなりますが、2週間勤務後に2週間の休暇となり、以前の臨床1.0FTEと類似したスタイルになります。

ハワイの職場とリーダーシップに状況を説明した後、日本からリモートでハワイの管理業務を継続するという条件で承認を得て、2023年6月より亀田総合病院での勤務を開始することにしました。

 

日米での働き方は違う?同じ?

2023年6月に日米での勤務を開始して以来、両職場に共通する要素のおかげで充実した仕事をしています。どちらの職場も、能力のある研修医によって臨床が支えられており、私は米国での経験を活かしたホスピタリスト教育を提供しています。言語は異なりますが、研修医に求められる教育アウトカムに焦点を当て、臨床業務を観察し、フィードバックを提供し、行動の変化を促して、独立した総合内科医として育つのを支援するという基本原則は同じです。

亀田総合病院では総合内科部長も務めており、マネジメント、研修プログラムの調整、採用活動など、米国での経験を日本の職場文化に適合させつつ、徐々に導入していくことで、変革を進めています。

現在進行形でアメリカでの業務を継続することで、私は常に複数の選択肢を持つことができ、これが大きな利点となっています。何かがうまくいかない場合、代替案としてプランBやプランCを持っているため、問題にただ反応(reactive)するのではなく、先手を打って対処(proactive)することができます。

12年ぶりに日本での臨床勤務を再開しましたが、多くの面で昔と変わらない点があり、臨床における戸惑いは予想外に少なかったです。総合医と専門医の連携は日米で異なりますが、亀田総合病院では総合内科の重要性と役割がすでに共通理解として確立されていたため、人員が増えればホスピタリスト部門の拡張も可能だと感じました。

そのため、今年の目標は、「ちょっと面白いことをやっているから見たい、聞きたい」という私たちの活動に興味を持った人々と積極的に交流し、彼らが「一緒に働きたい」「研修したい」と感じるような動機を与える機会を作ることです。

さらに、私は私たちの施設だけでなく、全国の「総合内科や総合診療に関心はあるけれどライフワークとしての一歩が踏み出せない」という若手医師や診療看護師に対して、多様な働き方を示し、その魅力を伝えることにも力を入れています。

 

働き方改革について思うこと

「働き方改革」というからには、これくらい変わったことをしてもあり!というメッセージを伝えることができれば、自分の存在には意味があると感じています。頻繁な移動は確かに大変で、実質的に1.5FTE分の労働を行っているため家族と過ごす時間は減りましたが、それでも私の選択は、日米でのホスピタリストとしての教育を充実させるミッションに導かれており、疲れは吹き飛びます。

また、ハワイ大学内科チーフレジデントとしての経験は、私の現在の働き方に非常に役立っています。プロジェクト管理、タスクの優先順位付け、時間管理、メンタルヘルスの維持、効果的な会議の進行、交渉能力、教育方法、リーダーシップといった幅広いスキルを身につけることができました。こういった若い頃からのファカルティデベロップメントは本当に有用だと思いますので、私はJACRA(日本チーフレジデント協会)のような組織を通じて、日本でのそのような活動を積極的に推進したいと考えています。

私は病院の管理者に対して、医師にとって持続可能な働き方を実現し、適材適所の人員配置を目指してもらうこと、そして若手にリーダーシップの役割を経験させるよう柔軟な姿勢を促すことを切に願っています。具体的な戦略として、労働時間と給与の等価交換を実現するFTE(Full-Time Equivalent)の考え方を紹介しました。また、wRVU(Work Relative Value Unit)という概念も大事ですが、今回は省略します。

参考文献;https://www.amjmed.com/article/S0002-9343(08)00051-X/fulltext

 

最後に

この記事を最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。この機会に、クイーンズメディカルセンターと亀田総合病院の経営陣、同僚の方々、そして私の家族へ深い感謝の意を表したいと思います。彼らの理解と支援があってこそ、私の現在の生活があります。

 


執筆:野木 真将(のぎ まさゆき)
2006年京都府立医科大学卒業、学生時代はバスケットボール部主将、学園祭実行委員、ESS部、演劇部に所属。2011年より渡米し、ハワイ大学内科チーフレジデントを経て、現職は、ハワイ州クイーンズメディカルセンター ホスピタリスト部門長および副メディカルディレクター。2022年にはFAIMER医学教育修士(MHPE)を取得。2023年6月から亀田総合病院の総合内科部長を兼任し、千葉県とハワイを往復しながら日米で研修医教育をしています。